【7・粘着】-1
(なんで…なんで……)
呆然と天井を見ながらそんな言葉だけがぐるぐると頭の中に思い浮かぶ。
他にはもう何も考えられなかった。
センさんに犯されてからまだそんなに日数がたっていない上に、こんな場所に連れて来られ、何人かにあんな姿を見られるなんて…あんな……
「……っ!」
もう何度零したかわからない涙がまた溢れて来る。
「ひっく!うぅ…ふっ…あぁあ…っ!」
「れんかちゃん…泣いてるの…?」
「あ、ジュ、ジュンイチ!?」
部屋の中に入ってきているのを思い出し、急いで身体を小さくして抱え見られないように隠す。
わたしのすぐ横まで来ていたジュンイチは、その身体をギラギラとした目で眺めながら言ってきた。
「れんかちゃん、ここから出よう?今ならセンさん出て行ったし逃げられるよ」
「え……、ほ、ほんとに?」
先ほどのVCでジュンイチも遠隔操作を使いわたしを使って遊んでいたことを知っている。
それでも、センさん以外の人の言葉に希望を持ってしまう。
「早いほうがいいよ、早く行こう!」
ベッドの上のわたしの腕を掴み、そのまま連れ出そうとする。
「きゃっ!ま、待って!服を…服を着させて!!」
片方の手を掴まれ、それでも少しでも見られないようにもう片方の手で、もう一度隠そうとする。
ゲームの中での知り合いだと言っても、今初めて出会う見知らぬ男性だ。
そんな男性に至近距離で裸を見られている感覚に、急激に恥ずかしくなる。
「あ…こ、こっち見ないで…。手を放してくれる…?」
素直に手を放してくれたジュンイチに、ほっとしながらベッド脇に脱いでいた服を見つける。
服をとろうとしてしゃがんだ時に、ごくん…とジュンイチが生唾を飲み込む音が聞こえた。
怖い。
ジュンイチはゲームをしていてもわたしについて回っていた印象がある人で、ずっと監視されているような感じがしてその頃から怖かった。今こうして近くにいても、視線が怖い。
着替え終わると同時にまたジュンイチに手を繋がれる。
ジュンイチは実際に見ると体の大きさも太っている分、センさんの倍もありそうなくらいの巨漢だ。
にちゃりとするその手を、怖さもあり思わず振りほどいてしまう。
「わ、わたし1人で歩けるから!」
ジュンイチはわたしを見て小さく何かつぶやくと、そのまま扉を開き、外を覗く。
「……大丈夫、誰もいないみたいだよ」
「ここ4階だね、見つからないように非常階段から行こうか」
その提案に、こくりと頷く。
エレベーターだといつ誰に遭遇するかわからず不安だ。
部屋から出ると、廊下は静まり返っており薄暗く空気がひんやりとしている。
その雰囲気までが何故か怖く、カタン、と物音がするたびに身体が飛び上がってしまう。
「…れんかちゃん怖い…?やっぱり手を繋ごう?」
大丈夫…と言おうとした矢先、強引に手を握られる。
「れんかちゃんの手、柔らかいね…すべすべしてる…」
わたしの手を両手で持ち、そのままジュンイチの頬に押し付けられる。
「あぁ…ずっと会いたかったよれんかちゃん……」
ぞわっと身体中に寒気が走る。
「離して!!」
気がつくとわたしは手を振り払い、ジュンイチの元から逃げ出していた。
怖い…、怖い…。
センさんとは違う怖さに、ジュンイチから離れたい気持ちでいっぱいになる。
必死になって走ると、通路の先に非常階段を見つけ急いで駆け降りた。
階段は吹き抜けになっていて、そのまま1階まで降りれそうだ。
運が良ければそのまま非常口から外に出られるかもしれない…と思ったとたんに、1階から声が聞こえてきた。
センさんがここのホテルは知り合いのものだと言っていた。さきほどの部屋があるようなホテルだ、誰かに出会うと外に出られる可能性はなくなってしまうだろう。
それに声の主がセンさん達だったら…。
考えると動けなくなる。階段の上で固まっていると、急に後ろから抱きすくめられた。
「きゃああ…んんーーっ!!!」
思わず叫んでしまったところを、手で口を塞がれる。
「ボクだよれんかちゃん、近くに倉庫があったから、とりあえずそこに隠れよう?」
叫んでしまったからか、下から誰かがあがってくる足音がする。
ジュンイチはわたしの手を引き、部屋がある通路に歩き出した。
「ここだよ」
階段から少し離れた場所に倉庫があった。その中に滑り込む。
中はいくつか窓があり、昼間なら電気をつけないでも中にあるものが見えるくらいの明るさがある。普段から使われない物が保管されているのか、棚に備品が、少し広い空間にテーブルやイスが片付けられていた。
その奥に隠れるように座る。
「あの…ジュンイチ?手を放して欲しいんだけど…」
先ほどからまた手を繋がれている。その声を無視してジュンイチは話し出した。