《魔王のウツワ》-5
『昼ご飯は?』
『これよ♪』
カップ麺B(味噌)が現れた。
『…晩ご飯は?』
『こ・れ・よ♪』
カップ麺C&D(C…赤いキ○ネ、D…緑のタ○キ)が現れた…
『どう?赤と緑のタッグマッチよ♪夢のコラボよ♪』
幼いながらも、自分の身体が手遅れになる前に、料理をしようと思った瞬間だった…
こうして、生きる為に料理を習得した。その他にも洗濯や掃除も母親はやらない…
俺がやるしかない…
これぞ、まさに反面教師の鑑…
まあ、そんなことはさておき、飯食おう。
箸を動かし、卵焼きやら、野菜炒めなどを口に運んでいく。
そして、おかず全てと、おにぎり2個を食べ終わった時…
「…ナァ〜」
「…あん?」
いつの間にか、黒猫が膝に擦り寄っていた。
何処から入ってきたのだろう?
「…逃げないんだな…」
憶することなくじゃれつく黒猫に、ちょっと嬉しくなった…
牛乳がまだ1/3くらい残っていたのを思いだし、おかずが入っていた容器に空けた。
「…飲むか?」
猫の前に牛乳の入った弁当箱を差し出した。
しばらく、その白い液体を見つめた後、舌を出し、ピチャピチャと飲み始めた。
首輪は無し。身体は小さく、まだ子供のようである。
「………」
少しの間、一心不乱に牛乳を飲む猫を見ていた。
そして、午後の授業が始まるまでの時間を潰す為、文庫本を取り出した。
タイトル『人間失格』。
俺は夏目よりも、太宰や芥川が好きだ。
両者の何とも言えない無情感が好きなのである。
「…あ、あの…」
しばらく、活字に目を通しながら、時折黒猫を撫でていると不意に声が掛かった。
本から目を離した。
そこには、小柄で俺以上に前髪を下ろしている女がいた。
「…ぁあ?」
また、やっちまった…
しかも、女子から話しかけられるという予想外の事態に少し緊張…
「…の、ノワールがお世話になりました!」
腰より少し高めの位置まである黒い長髪が、バサリと揺れ、女は深々と頭を下げた。