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こいびとは小学2年生
【ロリ 官能小説】

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悔恨そして決意-6


 涙が止まらなくなった。なにもかも、怡君さんの言うとおりだ。俺は、俺はなにをやってたんだ。

「だから泣いてる場合じゃないの」

 怡君さんの声はきっぱりと強く、けれど俺の胸におだやかに流れ込んでくる。もう俺は涙も嗚咽も止められなくなっていた。
 怡君さんの両手が俺の右手から離れる。ふう、とため息をついた怡君さんが、す、と中腰になって俺に近づき、

「しょうがないなあ……もう」

と言って、両腕を俺の背中に回した。そのまま俺の身体を引き寄せるようにして抱きしめる。俺の顔が、怡君さんの左肩に乗る。背中に回された怡君さんの両手が俺の背中をぽんぽん、と軽く叩く。

「私も先生も、お兄ちゃんとしのちゃんとさおりさんの味方だよ。いっぱい幸せになってほしい。だからお兄ちゃんが、お店に来て私にいまの辛い感情ぶつけてきたの、ちょっと嬉しかったんだ、頼りにされてるのかな、って。似たような経験、私と先生もしてたから」

 俺は怡君さんの身体にしがみつくようにして泣いた。正直、怡君さんに甘えたいとどこかで思っていた。のにそうしなかったのは俺のつまらないプライドと、しのちゃん以外の女の子で射精したりしている後ろめたさだ。そんな自分へのひたすらな情けなさと、けれどそんな俺をお姉さんのように諭してくれる怡君さんの温もりとが、俺の無力感を増幅させ、悔恨の涙を流させた。
 ぽんぽん、と背中を叩いていた怡君さんの両手が、俺の背中の肩甲骨から僧帽筋のあたりをやさしく撫ぜる。そのリズムに合わせるように、俺の嗚咽もゆっくりと収まり、呼吸が落ち着いてくる。
 怡君さんの両手が俺の両肩に軽く抱くように置かれた。俺も怡君さんの肩から頭を離す。怡君さんの室内着の左肩が、俺の涙でぐっしょりと濡れてそこだけグレーが濃くなっている。

「すみません、服……」

「いいのよそんなの」

 怡君さんが白い歯並びを見せて笑った。微風のような吐息が俺の顔にかかる。いつものように息臭のない怡君さんの吐息。

「でも、しつこいようだけど、泣いてるだけじゃだめ。私と先生とでできることならなんでも協力するから。お兄ちゃん、しのちゃんのこと、まだ愛してるんでしょ?」

 はい、と大きく頷く俺を見て、怡君さんはまた笑った。

「じゃあ、顔を洗って、朝ご飯を食べて、そして行動だ。お兄ちゃん今日は仕事?」

「はい」

「シャワー浴びる?」

「あ、いえ、いったん家に帰るので、着替えたりもしますし……あの、そういえば、先生は」

「ああ、もう出勤したの。今度の勤め先遠いし、それに朝から会議があるみたいで」

 怡君さんは鼻の上と眉の間に皺を寄せて笑いながら首を振った。

「台湾も日本も、学校は人使いが荒いね……あ、先生、出かける前にも言ってたよ、『僕でできることはなんでも力になるって伝えて』って。お兄ちゃんのこと、やっぱり人ごととは思えないみたいだよ」

 怡君さんが振り向いた視線の先には、壁にかけられた大きな結婚写真があった。台北101の夜景をバックに、ウエディングドレスとタキシード姿で向かい合う怡君さん夫婦。二人の表情は、いろんな出来事を乗り越えて一緒になった者同士が見せ合う、信頼の微笑みに満ちていた。



 たいしたものじゃなくて。そう言いながら怡君さんが用意してくれた朝食は、青菜や湯葉や肉そぼろが乗った粥に小皿の油菜と揚げパンだった。どこがたいしたものじゃないんですか、すっごい豪華じゃないですか。そう言いながらさっき流した涙も忘れて ―というかわんわん泣いた気恥ずかしさを打ち消したくて― 無遠慮にがっつく俺を、先生も大好物なんだ、この台湾朝粥、と言いながら眺める怡君さんの目は、出来の悪い弟への姉のそれを彷彿させた。
 怡君さんと、怡君さんの足元の玄関ラグの上にちょこんと座ってにゃにゃ、と鳴いた三毛猫の激励を背中に受けながらいったんアパートに戻り、ヒゲをあたりシャワーを浴びて新しいシャツに着替える。いつもの一連の動作だけど、そのひとつひとつをこなしていくうちに、俺の中で今日やらなきゃいけないこと、そしてそれに対する決心がだんだんと固まっていく。
 いつもよりも二本も早い電車で空港に着く。さくら太平洋航空のオフィスにはもう灯りがついていた。扉を開くと、ワンダのモーニングショットを右手に持った支店長がロビー側の扉から入ってくるところだった。ちょうどいい。
 おう、おはよう、と言いかけた支店長が俺の表情に気が付き、穏やかな笑顔が引きつり口と足が止まった。たぶん俺は、就活のとき以来支店長に見せていなかったような、緊張と決意が混じったような表情をしていたはずだ。
 オフィスには支店長と俺以外は誰もいない。俺は支店長の目を真っ直ぐ見て言った。

「ご相談があります」


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