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こいびとは小学2年生
【ロリ 官能小説】

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悔恨そして決意-4


 麻衣ちゃんの温かな吐息が耳朶にかかる。

「ゆうべも、ちょっと思い出しちゃいました」

 ふふ、と笑う吐息を俺の右耳に残して麻衣ちゃんが俺の身体のそばから離れる。

「でも、琴美さん言ってました『あいつ間違いなくつきあってる子いるよ』って。だから私、彼氏は学校で探します」

 ぺこ、と頭を下げて、麻衣ちゃんがターミナルビルの中へ戻っていった。ドアが閉まるかちゃん、という音で、やっと我に返る。
 麻衣ちゃんがいま言ったこと、どういう意味なんだろう。
 温くなりかけたエメラルドマウンテンブレンドを飲んでも、脳はクリアにならない。なにをしても、なにを聞いても、それらに向ける神経のバッファはしのちゃんにほとんど奪われている。
 夕方までの作業をいつもの1.5倍くらいの時間をかけて終わらせると、琴美や麻衣ちゃん、それに他の社員はとっくに退勤していた。やっと修理が終わったハイゼットカーゴをディーラーへ引き取りに行っている支店長にショートメールで終了報告をし、「お疲れさま、戸締まりよろしく」の返信を確認してタイムカードを打ち、セキュリティカードをかざして施錠して空港駅へと歩く。ホームにいた電車に乗り、シートに腰掛けて今日何度目かわからないため息をつく。
 家の最寄り駅が近づくたび、ゆうべのような不安な気持ちが強くなる。さおりさんからはなにも連絡はない。しのの機嫌直ったよ、八時くらいにお兄ちゃんから電話ください。そんなメッセージが届いたらこのなんというか不安に押しつぶされそうな精神状態から瞬時に解放されるのだけれど。
 最寄り駅の到着を告げる車内アナウンスに車窓の見慣れた風景が重なる。その、夕闇が近い空に、ふわ、と怡君さんの顔が浮かぶ。電車がホームに滑り込み、ドアが開いて、閉じる。誰も乗り降りしないまま、電車は次の駅へ向けて発車する。
 薄暮の中、店の看板が灯り始めた商店街を歩く。木製のドアを開くと、お客さんのいない店内で浅葱色のチャイナドレスを着た怡君さんが振り返った。

「あらお兄ちゃんいらっしゃ……どうしたの?」

 たぶん俺は朝からずっと、同じ硬い表情のままなんだろう。

「飲ませてください今日は」

 昔の演歌の歌詞みたいなことを言ってボックスシートに倒れるように座り込んだ。そっから先は、あんまり記憶がない。




 俺は目を覚ました。胸の上には三毛猫がいて、俺がかすかに動いた気配に立ち上がり、エクルベージュの背もたれにぴょん、と乗る。俺は記憶にないトレーナーを着て、ソファーの上で毛布にくるまっている。見たことのないテーブルや大型液晶テレビ、そして淡い色のカーテンがようようと開いた視界に入る。
 どこだ、ここは。
 ばさ、と毛布を剥いで上半身を起こす。

「あ、お兄ちゃん起きた?大丈夫頭痛かったりしない?」

 背後から怡君さんの声がする。振り向くと、カウンター越しにキッチンから怡君さんがこちらを見ていた。グレーのざっくりした室内着を着て、片手に背の高いやかんを持っている。

「あの……ここは……」

「私の家」

 跳ね起きた。

「え」

「だってお兄ちゃん、完全に酔っ払っちゃったんだもんゆうべ」

 おかしそうに笑いながら、コーヒーカップを手にした怡君さんがカウンターを回って歩いてくる。

「酔いつぶれて寝ちゃって、どうしても起きないから先生に頼んで車で迎えに来てもらったの。でもお兄ちゃんの住所わからないから、うちに連れてきちゃった」

 はい、と怡君さんがボーンチャイナのコーヒーカップを差し出す。きりり、とした味の熱いコーヒー。俺が寝ていたソファーの向かい側の一人掛けソファーに怡君さんが腰を下ろした。その頭上の時計は六時少し前を指している。

「あの……なんか、ご迷惑かけたみたいで……」

「ううん、いいのよ全然」

 笑う怡君さんの膝に、さっきの三毛猫がぴょん、と飛び乗る。

「ゆうべのお兄ちゃんね、……覚えてる?」

 ちょっと考えて首を横に振った。三毛猫の顎の下を指先でぐりぐりと撫でた怡君さんが小さく笑う。

「もう、大変だったんだから」

 ごろごろごろ、と喉を鳴らした三毛猫が怡君さんの膝の上で丸くなる。

「『しのちゃんが、しのちゃんが』ってずっと言っているの。だんだん酔っ払ってきて、そのうちなに言ってるかわからなくなってきて……最後、シートに横になって寝ちゃって、もうどんだけ声をかけても身体揺さぶっても起きないし」

 いたずらっぽく笑う怡君さんの膝の上で、三毛猫が気持ちよさそうにあくびした。

「……すみません、なんか……」

「いいのいいの。それよりも」


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