第二十五章 欲情-1
【啓介と同居 四ヶ月目】
【20●1年4月2日 AM9:00】
一週間後、庭で。
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「パンッ」という音とともに青空が白い布で覆われた。
目の前に広がった大きなシーツを物干しに掛けると、器用に皺を伸ばしながらクリップで止めていく。
洗濯は恵の心を軽くしてくれる。
春から初夏に向かう空は、澄切ったブルーに大きな雲を従えて元気良く色づいている。
あれから一週間が過ぎていた。
恵はもう悩んではいない。
事件から三日の間、夫に反省を促すような冷たい態度をとっていた。
だが、義父との「夕方までのデート」が恵の心をほぐしてくれる。
夫に対する怒りも解け、いつもより増して笑顔で接してあげたのだ。
ただ、無条件に喜ぶ夫に対して本当の「ご褒美」は与えてはいなかったが。
「ごめんね・・・。
今日から・・なっちゃったの・・・」
その言葉は武が更に一週間近くの「お預け」を食う事を意味していた。
三日も我慢していたのに。
それでも妻の笑顔は武の心に安らぎを与え、忠実な番犬のように辛抱強く待つ事にしていた。
慌てる事は無い、夫婦であるのだから。
恵が振りかえると、リビングの窓越しに義父の目と出会った。
すっかり打ち解けた二人は、日一日と互いを理解していった。
今まで避けていた分、余計興味深く相手を意識するようになっている。
恵も夫を許す代わりに、自分の心を縛っていた鎖も取り去さることにしたのだ。
さすがに、あれからは恋の告白はされなかったが、もう迷う事無く義父の視線に包まれる喜びに浸れるようになった。
二人の「夕方までのデート」は十時のお茶から始まる。
今もそれを待ちきれない啓介は早々とソファーに座り、天使の姿を眩しそうに眺めていたのだった。