第十四章 二つの言葉-1
【啓介と同居 三ヶ月目】
【20●1年3月16日 PM9:00】
夫婦の寝室で。
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ティッシュで拭きながら武が言った。
「ふー、すごかったぁ・・・。
初めてだね・・・こんなの?」
そして満足そうに妻の顔を覗き込んだ。
恵は涙を浮かべているのを夫に見られまいと背中をむけている。
均整の取れた身体のラインが美しいカーブを作る。
武は後悔していた。
今更ながら、この魅力的な妻に対して自分は何をしてあげたのだろうかと思った。
不感症気味だった妻に徐々に飽きていき、何度か風俗で浮気をしていた。
こんなにイジらしくなる程感じてくれるのなら、もう裏切る行為は止めようと思う。
これからはなるべく早く帰る事を決心するのだった。
恵は言いようの無い快感の余韻に浸りながら、心の中はひどく動揺していた。
初めて、いった。
あんなに感じたのは記憶に無い。
涙が溢れてくる。
この涙を夫に見られたくなかった。
そして、今は夫の顔は見たくない。
確かに恵はオーガズムを初めて体験した。
そう、義父である啓介に対して。
それが夫の武だと気が付いたのは何度目かの官能の波を浴びた後、ようやく正気に戻った時であった。
だが、それまでは・・・。
激しく舌を絡め取っていた。
貪るように男の唇を味わっていた。
それは全て義父のものだった。
(私・・どうしたの、かしら・・・?)
恵は言いようの無い切なさに胸が締め付けられる想いであった。
いくらショッキングな光景であったにしろ、頭に焼き付き、あんなに感じてしまうとは。
今までは夫とのセックスで、いった事が無かった。
だが、それでも愛に満ちた幸福感は味わう事が出来ていたのに。
老人とは言わないまでも60歳の義父に感じてしまうなんて。
恵の脳裏に再び義父のたぎるものが浮かんできた。