甘い同棲生活F-1
*
「ーー遠月さん、今日良かったら飲みませんか?」
昨日、柚木を連れて、水族館に出かけた木綿子に声をかけた。
ここは、自販機が置いてある休憩室で、理央は長椅子に座っていた。
飲み物を買いに来た木綿子に、理央は声をかける。
「亨に怒られます?」
「何。デートのお誘い?」
「えっ、あっ、そういうわけじゃ……っ」
エナジードリンクをもっているのとは反対の手で、理央はぶんぶんと手を横に振る。
「ふふ。相手が佐藤くんで、佐久間くんが怒るはずないでしょ。月曜日だから軽めにね。みち草予約しとくよ。十八時でいいかな」
「あ、すみません……!」
「ちゃんと、あたしと飲むって中村さんに言っとくのよ?」
*
息抜きがしたかった。
あまりに幸せで、あまりに加奈子のことが好きすぎて。
もちろん今だけの感情で、いずれは落ち着くのかもしれないが、浮き足立って、心が落ち着かない。
微笑まれたら、押し倒したくなる。
理央に抱かれたら安心すると加奈子はいうが、少なくともそうした感情と、理央の感情とはいささか異なる。
現にーー彼女に乱暴してしまった。
どこか気持ちが落ち着かない状態が続いているのだろう。
月曜日だから軽めに、と言った木綿子を遮って、浴びるように酒を飲んでしまった。
「ーーんぅ、ん」
何か柔らかいものが手の先に触れている。
安心感はあるが、官能的な香りでーーいつも嗅ぐ、優しい甘い香りとは違った。
その柔らかいものを撫でる。
それが人肌の柔らかさだということに気づくのに、少し時間がかかった。
強烈な頭痛。
だが、その官能的な香りが心地よくて、理央はそれをぎゅぅうっと抱きしめる。
気持ちいい。柔らかくて………ふわふわしていて……
鼻先に当たる髪の毛。
目を開けると、いつも抱きしめている黒髪とは異なる。
コンタクトレンズをつけたままの理央には、乾燥しきっているが、目に映るそれは見慣れたものではない。
栗色の、髪の毛ーー
「えっ……」
頭痛がひどいくせに、理央は体を起こす。灯りが付いたままだった。
目の先には見慣れないワンルームのアパートのキッチン。
手前にはローテーブル。いくつか開いている酒の缶。
右手で抱きしめていた一番目の前のものはーー黒いスエット姿の木綿子だった。
「う、うぇ……っ」
状況が理解できず、変な声を出した。
理央はスーツのジャケットとスラックスをソファーに脱ぎ捨てており、シャツと下着を身につけている。
ネクタイは丸められて、枕元に。
(な、なんじっ?!)
枕元に、自分のスマートフォンがあった。
朝の六時。
不在の着信履歴は思いのほかーーなかった。
既に通話した履歴を見ると、夜中の十二時頃ーー
「加奈子と、喋ってんじゃん……」
一分ほど、話をしている。何を話したか、覚えてない。