ツーショットー1-1
なぜか、奈岐には亮に惹かれるものがあるらしかった。もちろん、性欲を満たしてくれる条件に適っていたのは確かにある。それは直接に今現在の奈岐が求めているものだからである。
奈岐は渇えていた。
十代で夫啓介と付き合い始め、五年後に結婚し、二十代は啓介との愛を確かめ合い、セックスも深めることができ満足していた。しかし、三十代に入りその生活に女性の部分が薄れ始めたと感じたとき、仕事の取引先の睦夫にアプローチされ、アプローチの巧みさもあったが身体を許した。許した身体が睦夫の愛情に思った以上の反応を呼び起こし、短かったが繰り返された逢瀬の中で女としての身体の仕合せを存分に感じることが出来た。大きく硬い睦夫の陰茎は奈岐の膣の中で踊り、愛液をそれまでになくほとばしらせた。男の愛を身体ごと感じることが出来た。
しかし、あれから五年以上が経った。そして何事もなく奈岐はアラフォーになっていた。
そしてひょんなことから耳にしたチャットというサイバー空間での女の遊びに満ち足りない欲望を預けている。そこには画面を通すことによる安全という架空のハードルを前提に遊ぶ男の相手をするという女の遊びがあった。奈岐にとっても男性を相手にし手の交流はそれなりに面白かったし、性欲の処理にもなった。
ただいまは少しそこから本当の領域に入ろうとしていた。チャットがただの交流と性欲の処理だけでは奈岐のアラフォーの今を満たすというわけにはいかないのは当たり前かもしれない。このまま女としての人生が今ただ通り過ぎていくのは耐えがたかった。ただ欲望を満たすだけのことでは物足りない、ときめいていたいというのは女としての本能なのかもしれなかった。
最初から亮には奈岐が求めるものがあるのかもしれない、と思えるところがあった。性欲の処理、ただそれだけではないときめきを感じる何か惹かれるものがあった。
年上というのは奈岐のタイプではあった。亮はそういう意味で安心して頼れる男性を感じさせてもいた。
しかし、それだけではない、何かがあるようだった。奈岐に好ましく感じられたのは、可愛らしさというような母性本能をくすぐるようなところ、そして正直さ、まじめさという、こういうサイトの中で会ったり会社で一緒に仕事をする男性にはないものが、めずらしく自然に感じられるところだった。それは人間的な温かさかもしれなかった。
久しくしていなかった恋のトキメキのようなものが奈岐の心の中に芽生えていた。奈岐は恋をしたかったのかもしれない。優しく温かく愛されたいという思いが知らぬ間に募っていたのかもしれない。
恋、それは女に不可欠のものなのかもしれない、そして奈岐にとってはそれが今欠けたパズルのようにぽっかりと穴をあけていた。
奈岐には、もし次に逢った時、お互いの気持ちを重ねることが出来たら、かなり深く繋がりが持てそうな気がしてきていた。またそう期待する自分がいることを奈岐は感じてもいた。だから今日の午後二時の待ち合わせは奈岐にとって意識していたわけではなかったが何かを期待させるものだった。
亮が入ってきた。そして、
「なぎちゃん、こんにちは、、、、ねえ、ツーショット、双方向で設定して二人だけで話していい?」
ツーショットというのは文字通り二人だけで通信することだ、そして双方向というのはお互いの画像を映して声もお互いが出せる。
「うん、もちろん」
奈岐はいきなりのリクエストに少し戸惑ったが、嬉しかった。映像が写り亮を見てみると想像していたより若く柔和な感じがして想像に近かった。悪くない印象だった。何かを期待していいのかもしれなかった。
亮はマイクも入れて直接話をしてきてくれた。
「こんにちは、なぎちゃん、逢えて嬉しいよ」
「りょうさん、わたしも嬉しい、なんかちょっと照れるけど、りょうさん、優しそうで良かった」
「ありがとう、お世辞でもそう言ってくれて嬉しいよ、、、
なぎちゃん、相変わらずホント可愛い、好きです」
「お世辞じゃないよ、わたしもほんと嬉しい、なんかホントにデートしているみたい」
ただ直接逢っているのだが、まだお互いにマスクをしていて素顔を見ているわけではなかった。チャットでは顔見せする女の子もいるが、普通は顔を見せることで身バレすることもあり、悪いことに利用される恐れもあり大半はマスクをしているか、顔を見せずに顔から下の部分だけを女の子が多かった。