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熱帯魚の躾方
【SM 官能小説】

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捕獲(二)-1

 定休日の木曜日を挟んで、金曜日、出勤時刻の15時になっても沙莉は現れなかった。無理も無い、相当なショックを受けただろうし、これからどうされるのかと恐怖におののいているだろう。でも、彼女の性的な欲求や生活を冷静に考えるなら悪くない話だ。家に泊まってもいいと思ってくれたから、私への信頼は厚いはず。犯罪になるような行為は何もしていないから、警察沙汰にはならないだろう。
 ここでこちらから電話やLINUをしてはいけない。圧力をかけることを避けて、ゆっくりと待つしかない。上手くいく確率は極めて低いが、ここは我慢だ。
「勝負は、いつもAll or Nothingさ!」サラリーマン時代、部下によく送った言葉だ。何となく思い出しながら、ベタに餌をやっていた。
 あの夜のショックは、かなり大きかったみたいで、沙莉のSNSも停まったままだ。毎日のように更新されていたから、リスナーも気になっているだろう。少々、申し訳ない気もしたが、ここはきっぱり割り切らないといけない。
 もやもやとした気持ちを残したまま。週末が過ぎた。幸い一人になり仕事に忙殺されたからか、ゆっくりと眠りに就くことが出来た。

「もう、駄目かもしれない。彼女の口座を確認して、残りの給料を振込むか…。」LINUを送るが返事はまだ来ない。
 そんなぼんやりとした15時、突然沙莉は来た。「えっ、えーっと…。」汗をいっぱいかきながら、俯いてあたふたしている。赤い顔をしながら、こちらを見て、目があった。悪い事をした後の幼子のようだ。「無断欠勤して、ごめんなさい!」深々と頭を下げて戻さない。「はいはい、おはようさん!」敢えて普段通りに振る舞う。「まずは、水槽拭いてくれるかな?」頭を起こして、ホッとした顔に戻った。「は、はい!」
 水曜日の夜の件には、一切触れずに暫くは見守ることにした。バイトに戻って来てくれただけでも奇跡に近い。緊張感からか、一日二日はぎこちなかったが、ようやく元通りの関係に戻りつつあった。
 沙莉のSNSはまだ停まったままだ。「専念したいことがあるので、暫くお休みします!」という投稿があった。やはり、SC3の投稿から尾を引いてメディアそのものが怖くなったのだろうか?
 定休日の木曜日、朝から沙莉がLINUを送ってきた。「今日、お時間ありますか?」「一日、暇だよ。お昼御飯でも行く?」「いえ、14時頃に伺ってもいいですか?」
 弁護士とか知り合いの男とか連れてくるのだろうか?ちょっと不安になったが、そうするなら、バイトに復帰したりはしないはず。きっと奴隷契約書を返すということだろう。内容的に人に見せられるものじゃないし、外で話せるものじゃない。
 簡単に昼食を済ませ。そわそわしながら沙莉を待った。13時45分、沙莉が来た。店で会うことにした。
「こんにちは〜!お休みなのにすいません!」テレビ取材の時と同じタイトな黒いノースリーブのミニワンピースを着ていた。下ろしたら髪は以前より少し長くなって、バストトップあたりまである。あの時と同じ溢れんばかりの笑顔で、呆気にとられてしまった。
「店長、どーしました?」「ああ、お疲れ様!」「これ食べませんか?チーズケーキ作ってきたんです。」
 カフェコーナーのテーブルに向かい合って沙莉と座った。淹れたてのコーヒーとチーズケーキを置いた皿が並ぶ。
「取材の時のワンピースだね。よく似合ってる!沙莉ちゃんの良さが引き立つね!」「ありがとうございます!」あの夜以前の自然体な沙莉に戻っている気がした。何かふっきれたように感じる。最後の挨拶に来たのだろうか?不安が頭をよぎる。

「えーっと、これ…。」鞄から茶色い封筒を取り出して私の前に置いた。そのまま貰って、横の椅子に置こうとすると、「あ、違うんです!見てください!」「えっ?」沙莉の顔がほんのりと赤くなったいる。「ま、まさか?」心の中で呟いた。
 封筒から奴隷契約書、調教の規則、覚書を取り出して、白いテーブルの上に並べた。沙莉が更に顔を赤くして俯いている。順番に確認するとサインが入っている。予想外の展開に驚いた。「沙莉ちゃん、いいの?」目をふせたままゆっくりと頷いた。名前は記入されているが、血判は押されていない。
「あの?ネットで見ると、血判って、指を切ってその血で捺印するって。自分で出来なくて、店長にお願いしようかと?」顔を上げた。「名前だけでも大丈夫!ちょっと待ってね!」コピーを取り、赤のスタンプ台を持ってきた。
「じゃ、こうしよう。」左手の薬指にスタンプ台のインクを着けて、名前の横に押した。
「はい!血判!」「えー、これインチキじゃないですかぁー?」ようやく沙莉が笑った。
「いいの!俺と沙莉ちゃんだけわかればいいことだから。」割印も押して書類を二つに分けて手渡す。
「本当にいいんだね?後戻りは出来ないよ。」「はい。」こちらを見ながら返事をしてくれた。「はい、御主人様と言ってみなさい!」「はい!御主人様!」「もっと強く!」「はい!御主人様!」素直に応じている。本気で覚悟を決めてきたようだ。今日の服はそれを意味していたんだ。
「じゃ、必要なことを話し合おう。」
 沙莉からの要望はこんな内容だ。
 ・愛情が出来るまでキスは、待って欲しい。
 ・身体に跡が残る行為は、露出しないところ
  以外はNG。
 ・ちゃんと家事を手伝うから、「住込みのバ
  イト」として雇って欲しい。
 ・撮影時に必要な服やアクセサリーの費用を
  援助して欲しい。勿論、高価な物は買わな
  い。
 ・生活や調教に馴れるまで、一人で就寝した
  い。一人の時間も欲しい。
 ・生理中の調教は控えて欲しい。
 ・男性経験も少なくて、SMプレイの経験も無
  いので、優しくして欲しい。


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