捕獲準備(二)-1
「おっはよーございまーす!」沙莉の透き通った声が響く。「あれ?店長寝不足ですか?」大きな欠伸を見られてしまった。「海外ドラマにハマっちゃってね。ウォーキング何たらなヤツ!」「沙莉ちゃんも観た?」「私、ホラーとか全然ダメで…。」
赤い丈の短いTシャツとデニムの短パン姿の沙莉を見ると、昨夜の動画が思い出されて、股間が熱くなる気がした。Tシャツの下から覗く可愛いへそも今日は目の毒だ。
沙莉が珍しく朝一から出勤なのをすっかり忘れていた。どうせならしっかりと稼げるほうがいいだろうと思い、シフトは彼女の希望通りにしている。本音は一緒に過ごす時間が出来るだけ長く欲しいということもある。
「目にクマ出来てますよー!コーヒー淹れましょう。」熱いコーヒーとお湯で温めたハンドタオルを持って来てくれた。椅子に座り上を向いて瞼にハンドタオルを乗せる。昨夜見た動画を思い出していた。「やはり、りさは沙莉に間違い無い。白を基調とした部屋に木製のベッド。」頭を戻すと首から肩が痛い。頭を捻りながら首の付け根を押さえる。「肩こりですか?揉みましょうか?」嬉しい申出だ。「ああ、お願いするよ。」「小さい頃、母の肩よく揉んだんですよ!」細いしなやかな指が首の付け根を包む。
沙莉は育ちが良く、お嬢様タイプだ。何故、あんな動画を投稿しているのだろうか?純朴過ぎるというか無防備過ぎるのは自宅に配達した時からわかっているが、非常にリスクが高い行為だ。自慰行為の刺激の為か、それとも収入の為か、肩を揉まれながら色々な考えが浮かぶ。
「店長、今日お弁当作って来たんですよー!一緒に食べてくれます?」「えっ?作って来たの?」「外食とほか弁ばかりだし、奢って貰ってばっかりだから…。」「いやー、嬉しいな!ありがとう!」手作り弁当などいつ以来だろうか?「うんうん、どれも美味しいね!ほんと美味しい!」
そう言えば、亡くなった妻梨花もよく弁当を作ってくれた。営業職だから移動時間が多く、ランチタイムに食事が摂れないことが多かった。車中で早く食べられて、時間の節約にも繋がる。残業も多かったから、昼食をクライアントと一緒にした時は、夕方に温めて食べることも出来た。
「店長?大丈夫ですか?」「あれ?あはは、すまんすまん。ちょっと妻のこと、思い出しちゃって…。」気がつけば涙が頬を伝っていた。「いや、何と言うか…。味が優しい感じで、妻の作ってくれた弁当とよく似てるんだよね。この卵焼きとかそっくりだ。」薄味だが物足りなくない絶妙の味付けは亡くなった妻とそっくりだ。
「ご馳走様〜!美味しかった!ありがとう!」「よかった〜!でも、迷惑じゃなかったですか?辛い事思い出させて…。ごめんなさい。」「とんでもない!また、食べたいな!」「じゃ、また朝から入れる時に。」
沙莉は明るく聡明で優しい。「こんな娘を捕獲して調教していいのか?」心の中で迷いが生じ始めている。
幼少期から色んなペットを飼った。捕まえてきた昆虫から鳥、ウサギから犬まで…。中でも犬はよく懐いて可愛かった。可愛いと思えば思うほど、何故か虐めてみたくなるのだ。虐待ではない、ちょっとした虐めだ。遊びに使うゴムボールを投げるふりして隠したり、おやつのビーフジャーキーをギリギリ届かない高さに吊ったり、だが最後にはちゃんとご褒美をあげる。小学校低学年位の頃、戦隊もののごっこをしてよく遊んだ女の子がいた。自分が敵役で負けないといけないのに組み伏せて、ギブアップするまでくすぐったりした。相手のことが好きで可愛いほど嗜虐性が高まってしまう。
食後のコーヒーは、私が淹れた。「夏でもホットが美味しいですよねー!」「そうそう、お弁当のお礼に、今度一緒にすき焼きとかどう?うちでだけど…。」「うわっ!すき焼き大好きですよ!いいんですかー?」「お客さんから高いワインも貰ってね。独りで呑むのもちょっとね。」「えー!楽しみですー!定休日がいいですよね?」「最近、残りやすいから前のほうがありがたいなぁ。」沙莉がスマホを見ながらスケジュールを確認する。「次の水曜はちょっと予定が…。再来週の水曜とかどうですかぁ?」
捕獲する日が決まった。それまでに逃げられないように網を張り巡らせなければならない。あのpassを解いて、映像を確認し、逃げ場を無くして、観念させる。忙しい日々になりそうだ。
「お疲れ様でした〜!」深くお辞儀をして大きく手を振りながら帰っていく沙莉。
今は、沙莉が一番好きで可愛い。たとえ彼女を傷つけることになったとしても、この歪んだ愛情と赤黒い炎のような欲望は抑えきれないだろう。