甘い同棲生活C-1
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年に一度ある藤沢への出張を、今年は理央も加奈子も断った。
二人とも、お互い何かを話したわけではなかったがーー性的な雰囲気に流される可能性を避けたかった。おそらく、本社からやってくるのは佳織と隼人だろうから。
どちらかが行くことを上司に提案されたが、二人はそれとなく、同じ部署の別の人物の名前を上げた。
彼らが嫌いな訳では無い。
だが、加奈子も理央も、去年の出張にはあまりいい思い出がない。
理央は理央で、隼人に対する不信感があり、以前静岡支社に出張に来て以来、連絡を取っていないようだ。
(あたしの……せいよね)
二人きりにならなければ、隼人は自分の体に触れなかっただろう。何度もそれを考えてしまう。
自分という存在が、彼を欲情させたのか。
あのまま、もし隼人がやめてくれず、さらに体を暴かれていたらーー
三人の合意の上でプレイすることと、全く違う状況だったことを思い出して、改めて怖くなる。
そして、自分のせいで、隼人と理央の間に亀裂を生じさせてしまったことに責任を感じてしまう。
夜の、十時頃だった。
今日は加奈子と理央の後輩を、例の出張に送り出した日だった。
理央は後身の育成にもなるからという理由で断ったのだったが、加奈子同様、会社でどこか元気がなさそうだった。
加奈子も特にそのことに触れず、春休み中の柚木が、理央と一緒に二階に上がったあと、冷蔵庫の中のアルコールを取り出す。
三五○缶のビールに口をつけて、スマートフォンを眺めていると、着信があった。
ーー佳織だった。
佳織は二人が出張に来ないことに色々と邪推をしたのかもしれない。今はあまり話したくない相手だった。
少し悩んだあと、スマートフォンを耳に当てる。
「お疲れ様です……」
「あ、中村さん。本間です。今、大丈夫だった?ごめんなさい、夜分に」
「いえ、今日、本間さん……出張でしたよね」
「うん。今日はホテル泊まらずにそのまま帰ってきたよ。今、自宅の寝室。藤沢からだと帰るの億劫なんだけど、明日早い時間から予定があって」
とすると、おそらく隼人は側にいないのだろう。加奈子は、ほっと胸を撫で下ろす。
「佐藤くんの後輩は、きちんと動いてくれてたよっていう報告の電話です。佐藤くんが引き継ぎもうまくしてくれて、とてもスムーズでした。ホント、彼の仕事ぶりってそういうところに表れるよね、先方も感心してました」
「それは、良かったですーーあ。」
理央が上から降りてきて、飲み物を取りにキッチンへと入ってくる。
「電話中?ごめん」とぼそっと呟くと、静かに冷蔵庫を開けて、お茶をグラスに注いでいる。
「今、佐藤くんが」
理央は自分の名前が出たことに驚いて「誰?」とグラスを持ちながら、椅子に座る加奈子の隣に座った。
「本間さん。替わる?」
少し驚いた顔をしつつも、静かに頷く。加奈子はスピーカーフォンにした。