後輩は私のものA-7
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「ーーごめん」
まだ夕方だというのに、一枚の布団の中で二人はごろごろと寝転がる。
理央は上下黒のスエット姿で、加奈子は紺色の薄手のパジャマを身につけていた。
加奈子の腕に抱かれながら沈黙を破ったのは理央で、先のことを謝った。
「なぁに?避妊しなかったこと?あたしからしたのに」
「それもだし……首も、だし……色々」
まだ少し濡れている理央の髪の毛を加奈子は撫でる。
「……精神的な部分が、すごく気持ちいいし……加奈子とぎゅってするのは、すごく安心感があるよ。ただ、前も言ったけど、僕が加奈子の体を大事にしてないって思っちゃうのが……ダメで」
「じゃ、理央は悪くない。あたしがダメでしょ。きちんと気をつけます」
加奈子はふふっと笑って、抱き抱えた理央の頭の額に、キスを落とす。
「ーーあと、考えてたことがあって。この家、引き払おうかなって思ってるの。まあ、柚木の校区のことがあるから、引っ越すとしてもこの辺なんだけどさ。もう少し広い家に」
前々から、加奈子は引越しを考えていたのだった。
第二次性徴がまだ来てないとはいえ、さすがにそろそろ母親と同じ寝室で寝るのは、いかがなものかと、加奈子は思っていた。
中学に上がる前に勉強部屋も兼ねて、柚木のプライバシーを守るための部屋を与えてあげたかった。
理央に、そんな風に話す。
「それに……いくら気をつけてるとはいえ、何となくあたしと理央とのこと、さすがにそろそろわかってきたっぽいの。小学五年生だし、男女の関係が何となく、色っぽいものだってわかってくる年齢だよね。興味なくてもさ」
言葉を丁寧に選んだ言い方に感心しつつ、理央は加奈子の顔をじっと見つめていた。
「あと、佐藤くんはずっと家にいちゃいけないの?って言われたから。ずっと考えてたの。ーー理央、あたしと、一緒に住まない?」
「え」
呆けた声を思わず出した。
「籍入れて欲しいとか、言ってるんじゃないの。会社、同じなわけだから、経理の人にはバレちゃうだろうけど……。理央も、そのほうが安心するかなって勝手に思ってた時に、今日の電話で、理央と一緒に住まないの?って本間さんに聞かれたの」
加奈子は、結果的にこの相談をする最後のひと押しを、佳織に後押しされたのだと思いながら、苦笑いを浮かべた。
理央が口を尖らせながら、むぅ、と困った時の口癖を言う。
「もちろん、無理にとは言わないわよ。別に一緒に住まなくても、関係は変わらないんだから。今まで徒歩で通勤してたのに、理央がうちに引っ越したら会社から遠くなるしねーーきゃっ」
急に、ぎゅぅうっと加奈子の腰が強く抱きとめられる。
理央に唇を押し付けられ、口腔内を分厚い舌が這い回る。
横向きになっていた加奈子の体は組み敷かれ、いつの間にか既に性交しているかのような体勢になっていた。
「んん、急にどしたの」
ぷはっ、と息を吸い込んで、加奈子は目を潤ませながら問う。
「ーー僕、一緒に住んでもいいの?」
「ふふ。もちろん。あたし自身、家族と以外で誰かと住むのって初めてだから色々ルール決めて、それで合意したら、決定にしましょう。お互い納得のいく形じゃないと嫌だしね。柚木もいるから」
「んぅ、僕、加奈子と住みたい」
「ふふ。女遊び、いよいよできないわよ?」
「な、えっ……僕、そもそもしてないじゃんかぁ!」
焦る理央の頭をぽんぽん、と撫でながら加奈子は狡猾な目付きをする。
「理央のこと、誰にもあげないから」
ぺろっとイタズラそうに、加奈子は舌を出す。
ああ、もう逃れられないーー
この人に縛られたくて堪らなかったのだ、と理央は改めて思うのだった。