楓南と恵未 -5
その週末、いつものようにひとりブランチの後、家中の掃除をしていると
“ピンポーン”
「はい」モニターには懐かしい恵未の姿があったので慌ててドアを開けに行った。
「久しぶりね。入ってもいいかしら?」
遠慮がちに言った。
「そんなこと聞かないでよ。自分の家じゃないか。」
「ありがとう。」
リビングに入り、別居前と同じように長椅子に並んで腰を下ろしたところで、恵未がしんみりと切り出した。
「今日はちょっとお話ししようと思ってきたの。まず楓南のことだけど。」
「うん。」
「この前は連れて来てくれてありがとう。」
「ううん、恵未をこれ以上怒らせることをしちゃいけないと思ってね。楓南ちゃんがおとなしく帰ってくれて良かった。」
「楓南はそんなに何度もここに来てたの?」
「うん、もっと早く言えばよかったね。お義母さんにも黙って来てるとは知らなかったんだよ。」
「楓南があんなに思いつめているなんて全然知らなかった。」
「俺も驚いたよ。」
「やっぱり姉妹なのかな。同じ人を好きになるなんて。」
「う、うん。」
改めてそう言われると顔がほてってくる。
「それでね、あなたのことを色々考えていたら、あなたにも良いところがたくさんあったんだなって思い出して、ちょっと考え直そうかなって。」
「え?じゃあ帰ってきてくれるの?」
「ええ、なんて言うか、つまり大好きなあなたを楓南に取られるのが惜しくなったって言うか…。」
「ほんとに?」
「あの時はあなたが約束を破ったことで頭に血が上ってしまって後先考えずに家を飛び出しちゃったんだけど、落ち着いて思い出して考えてみたら、あんなお店に行ったっていうだけで何もしてないんでしょう?」
「うん、前にも言ったように誘われてついて行ったけどすぐに帰ったから何もなかったんだ。」
「ごめんなさい。」
「いや俺の方こそ軽々しく行かなきゃ良かったんだ。もう行かないって約束を破って謝るのはこっちの方だよ。」
「じゃまたここに戻ってきても良いかしら。」
「ほんとに?うれしいな。今日から?」
喜びがにじみ出てくるのを隠さずに言った。
「今日は話をしに来ただけだから一旦実家に戻るわ。」
「ここは恵未がいつ帰ってきても良いようにきれいにしてあるよ。」
「そのようね、うれしいわ。じゃ、久しぶりにお昼ごはんの用意する?」
「いいね、でもその前に´あれ´しようよ。恵未が出て行ってから何ヶ月もずっとご無沙汰だからうんと溜まってるんだ。」
「いやだ。早速なの? 相変わらずね。」
「だって俺には恵未しかいないんだもの。」
「楓南とはそんなこと、何もしてないのね?」
「そうだよ。正直な話、恵未と似ているから恵未の代わりに、と思ったことはないと言えばウソになるけど、やっぱり恵未じゃないからね。」
「そう? 我慢して手を出さなかったの?」
「うん。楓南ちゃんには指1本触れてないよ。」
ちょっと心が痛んだが、ここまで来て話を逆戻りさせるようなことを言ってはいけない。胸の内で謝っておこう。
「いいわ、仲直りに思いっ切りしよう。」
「よ〜し、がんばるぞ。」
「いやだ、そんな嬉しそうな顔して!」
最初は硬い表情をしていた恵未も気分がほぐれたようだった。
満更でもなさそうだ。少しは期待してたんだろうか。