楓南と恵未 -3
そうは思ったものの、楓南が帰った後で落ち着いて考えてみて、やっと危険な匂いを強く感じ始めたので、数日後、楓南と恵未が勤めに出て家にいない頃を見計らって楓南の母親に電話をしてみた。
「ご無沙汰しています、お義母さん。中川です。」
「あら、宗介さん?恵未はパートに出てるけど何か用かしら?」
「いいえ、そうじゃなくって、あのぅ、楓南ちゃんが時々家に遊びに来るようになったんですけど、構いませんか?」
「え、そうなの?全然知らなかったわ。最近行先を言わずにちょくちょく外出すると思ったら宗介さんのところに行っていたのね。それは…あなたには悪いけど、よろしくないわねぇ。恵未が聞いたら言い争いになるかもしれないわね。わかりました。楓南にはもう行かないよう、きつく言っておきます。連絡してくれてありがとう。」
「いいえ…。」
更に恵未の様子も聞きたかったのだが、なんとなく聞きそびれてしまった。
恵未とよりを戻すのは難しいのだろうか。
仲直りがだんだん遠くなっていくような気がする。
それならいっそのこと楓南を、と気持ちが揺れるのだが…。
ところが、その夜遅くなって一気に情勢が変化した。
“ピンポーン“
こんな遅くに誰だろうとインターホンのモニターを見ると、楓南がただならぬ様子で写っていた。
あわててドアを開けて言った。
「こんな遅くにどうしたの?」
「どうしたもこうしたもないわよ。どうして母さんに告げ口したの?『もう宗介さんのところに行っちゃいけない』って言ったから喧嘩して飛び出してきたの。どうして私が来ちゃいけないの? 宗介さんのことが好きで好きでたまらないのに、どうして?」
俺の胸に飛び込んで、大粒の涙をこぼして泣き出した。
まずい、最悪の状況になってしまった。
と、そこに電話が鳴り始めたので楓南をリビングのソファに座らせて受話器をとった。
「はい中川です。」
「夜遅くにごめんなさい。そちらに楓南が行ってないかしら?」
楓南の母親からだった。
「ちょうど今来たところです。」
「そうなの…困った娘ね、迷惑かけて悪いわね。楓南に家に戻るように言ってくださいな。」
「わかりました。そうします。」
どうするのが最善の方法かわからないが、とりあえず今日のところは何が何でも楓南を返さなければいけないだろう。
「楓南ちゃん、お義母さんが心配しているよ。」
楓南の隣に座った。
「“ちゃん”はいらないって言ったでしょ!」
「そんな事言ってる場合じゃないよぅ。」
「やっぱり宗介さんは私が来たら迷惑なのね。」
泣き止んではいたものの、頬を膨らませ口を尖らせて横目で俺をにらんでいる。
ちょっと待ってくれ、そんな可愛い表情を見せられるとじっと我慢している俺の心が折れてしまいそうだ。