恋人からの嫉妬-1
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隼人が東京へ戻っても、理央の心の中に、もやがかかったままだった。
理央の恋人をからかったにしては、冗談では済まされない。
加奈子は、あくまで普通に接していたのだが、二人きりになったときには怯えていたのだから。
そして、加奈子にそれを打ち明けられた翌日の今日、隼人も随分とよそよそしかった。
理央はあくまで平静を装っていたがーー仕事に集中することができなかった。
今日も再び、理央は加奈子の家に泊まっていたが、なかなか眠ることができなかった。
深夜一時頃。
加奈子の家のリビングで、不躾だとわかっているが起きているか確認もしないまま、本社勤務である本間佳織に電話をかけたのだった。
ダイニングテーブルに備え付けの椅子に、足を乗せて体育座りの状態だった。
三回ほどコールが鳴って、通話が開始される。
「もしもし、すみません。こんな夜分に」
「どうしたの。こんな夜中に。スマートフォン触ってたけど、間違いかと思って取るの戸惑っちゃった」
佳織に連絡をすることなど仕事以外ではほぼ皆無と言っていい。
だからこそ、佳織はそんな風に言う。
「ご自宅でしたか」
「なぁに、よそよそしい。今は、自分のベッドでゴロゴロしてた。大体金曜日は起きてるから気にしなくていいわよ。息子はもう寝ちゃってるし。
仕事のこと?武島くん、出張今日までだったでしょう」
「いえ……。そうでは、ないんですが」
普段、佳織に敬語を使わないくせに、そんなよそよそしい態度に佳織が困っているのがスマートフォン越しにも伝わる。
少し無言の時間があって、佳織が口を開いた。
「武島くんと、久しぶりに会って喧嘩でもしたの?」
どきっ、としたが、なるべく平静を装って否定した。実際に、今日は隼人と話さえもしなかった。
「ううん、そんなんじゃない。ーーダメ?僕が本間さんの声聞きたくなったら」
「あら。嬉しいけど、声って……エッチな声のこと?」
急に、艶っぽい、いやらしい声色になる。
「え、あ、違うっ、からかわないでよっ」
「からかいたくもなるでしょう。中村さんじゃなくて、あたしに連絡してくるなんて」
「い、いや、加奈子はいるんだ。今、加奈子んちだけど、寝られ……なくて。ちょっと考え事しちゃって。リビング出てきて」
理央は膝を抱えて、胸を高鳴らせながら答えた。
加奈子と隼人のことでもやもやしていたのに、不謹慎かもしれないが、佳織が理央をからかったことにどきどきしてしまっている。
「中村さんに甘えたくてもお子さんいるし、二人でいてもなかなか難しいよね」
察したように、佳織が言う。
昨日だって乱暴に扱ってしまったのに。これ以上彼女を傷つけてしまうような行為をしたくなかった。
「う……うん。それに、昨日と今日、隼人の対応、加奈子がやってたから。疲れてると思う……。加奈子は寝てる」