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メダイユ国物語
【ファンタジー 官能小説】

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ラバーン王国のプリンセス-6

「ユゲイアの亡き国王の後継者であられるご子息は、現在まだ八歳です。未成年であるため、当然政務を執り行うことがまだできません」

「それであなたがその後継者に代わり、政務に就いているということですね?」

「ご理解いただけて幸いです」

 オズベリヒと名乗ったその男は、大げさに最敬礼をしてみせる。相変わらずの薄笑いで、そこに敬意などは全く含まれていないことはよく分かる。

「分かりません。それがなぜ、ラバーン国王の居城を襲撃することになるのですか?」

 至極当然の問いだった。全く理由が掴めない。マレーナは質問を続ける。

「クーデターですよ。今回のこれはその第一歩に過ぎません」

「クーデター……ですって……」

「そうです」

 オズベリヒは薄笑みで歪めたままの口で答えた。

「メダイユ連邦国の政策に不満があるのなら、正式に議会で問題提起すればいいじゃないですか。なぜ暴力で解決しようとするのです? また百年前の、あの戦争の時代に戻りたいのですか?」

 国王不在の今、マレーナは替わりを努めようと必死だった。十六歳の少女とは思えない、対応ぶりである。

「ふん――」

 落胆する表情で首を横に振ると、オズベリヒはさらに続ける。

「姫君は何も分かってはおられない。この惑星の歴史を上っ面しか見ていない……」

「どういうことですか?」

 マレーナは、ますますオズベリヒに対する不信感が募る。

「この惑星の歴史――特に長い戦争が終わりを迎えた前後からそれ以降の歴史は、教科書に載っている内容は全くのデタラメです。大事なことが隠されて、なかったことにされている」

「その大事なこととは、どういったことでしょう? わたしが聞かせていただいても、構わない内容でしょうか?」

 目の前の問題を解決――出来るのか、全く自信はなかったが――するためには、まずは彼の話を聞くべきだ、マレーナはそう思った。

「……では、お聞かせいたしましょう。この惑星の、この国々の歴史に隠された闇を」

 彼はそう言うと、手近のソファーに腰を下ろした。長い話になるということだろう。彼はマレーナに対してもソファーを薦めたが、王女はそれを断り、彼の話に耳を傾けた。


 ユゲイア王国の摂政であるオズベリヒ・ブリューゲルの語った、惑星オセリアスの近代史に隠された事項――特に戦争が終結して連邦国家が誕生するまでの歴史――は、にわかには信じることの出来ない、驚くべき内容だった。

 メダイユ連邦国はラバーン王国が中心となり、国々をまとめて誕生した。その事実は間違いない。ところが、記録では『話し合いにより平和的にまとめ上げた』とされていたが、実際には全く逆であったと、オズベリヒは言う。

 兵器製造を基幹産業とするユゲイア王国は本来、ラバーン王国の友好国であり、属国でもあった。小国ユゲイアの持つ軍事産業と、それに支えられた軍隊は、ラバーン王国の陰の兵力として戦時中より暗躍してきた。そしてメダイユ連邦国設立の際も、それに反発する各国の有力者たちを、ユゲイアの有する軍隊――むしろ暗殺集団である――が闇から闇へと葬ってきた。ラバーン王国は武力によって各国をまとめ、半ば力任せに連邦国を設立させたと言うのである。

 しかし、そんなユゲイア王国の行為は、決して功績として讃えられることはなかった。それらを綴った記録も一切合切が破棄された。惑星オセリアスの歴史からは、元々無かったこととして抹消された。全ては、あくまでも『平和的』に、国々がまとめられたことにするためである。

 そしてオズベリヒという男は、そんな歴史の陰でラバーン王国の命を受け、殺戮行為を繰り返してきた軍隊を率いる一族、ブリューゲル家の末裔だった。


「――言うなれば」

 歴史の裏に隠された真実を、ひとしきり語り終えたオズベリヒは続ける。

「我々ユゲイアは代々、あなた方ラバーン王国の汚れ仕事(ウェットワーク)を一手に引き受けてきたわけです。歴史に名を残すことも出来ない、そんな悪行の数々をね。私はそれがどうしても許せないのです」

 マレーナには、まだ十六歳の少女には、受け入れがたい話だった。

「嘘です……」

 それでも、今現在ラバーン王国を代表する立場である彼女は口を開いた。

「そんなのは、あなたたちがこの愚劣な行いを、正当化させるために用意した方便です」

 そう言いながら、マレーナはまるで汚いものを前にしているかのように、オズベリヒから顔を背ける。すると彼は立ち上がり、ツカツカと王女の元へ近づいて彼女の顎を手に取ると、王女の顔を強引に自分の方へ向けた。

「我々がこの国に争いを仕掛けるために、嘘の理由をでっち上げたとでも? 心外ですな」

 王女に対する言葉遣いは丁寧さを崩していないが、彼の立ち振舞いにはかなりの苛立ちが現れていた。

「くっ――」

 王女が負けじと彼を睨みつけた、その直後だった。

 侍女のグレンナが二人の間に割って入り、

「この無礼者っ! 姫様への非礼は許しませんっ!」

 オズベリヒに向けて言い放った。

 すると彼は、

「たかが侍女の分際で――」

 彼女の腕を掴み、力任せに引いて自分の脇へ追いやる。

 急な出来事に、態勢を崩したグレンナは、よろけて跪(ひざまず)いてしまった。

「わたしの侍女に何をするっ!」

 マレーナは自分のことのように、怒りを露わにオズベリヒへぶつけ、侍女の元へ駆け寄ろうとした。

 その時、ヒュンッという空気を切り裂く音と共に、マレーナの目の前を何かが勢いよく横切った。


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