THE BLACK BOX-5
「で…」
若菜の表情がキッと引き締まり、刑事としてのスィッチが入った意識を杉山は感じとった。
「ホーケー手術してオシッコが真っ直ぐ飛ばないぐらい腫れてて痛いとこ悪いんだけど…」
(こ、この人、まだ言うか!?しかもめっちゃ真顔で…)
表情でその話は終わりだとこっちにサインを送って置きながらもまだ引っ張る若菜の性格のしつこさを感じさせる若菜にもはや恐ろしささえ感じる杉山に、ようやくイチ刑事らしい言葉が発せられる。
「頼んでおいた高嶋美琴の事を報告して。」
「はい、分かりました。」
以前若菜からの指令で美琴に会いに行ったが、その後も美琴の事は調べさせられていた。
「あれから会員になり机波市の本社下の1号店に定期的に出向いてます。年商56億のネイルサロン、リグレッドですが、現在も経営は安定、300店舗あった店は現在郊外に続々と出店しており来年の今頃には50店舗増える計画だそうです。色々調べて分かったんですが、リグレッドの爪エステの料金は他と比べても安いです。普通ハンドエステとのセットで一回9000円ぐらいはしますが、リグレッドは一ヶ月5回のコースで1万円です。この料金の安さでこれだけの売り上げを上げると言う事はそれだけの会員数があると言う事。店内は個室が20あり、確かにいつも埋まってます。初回以外は完全予約制ですので効率よく客を回している模様ですね。」
「しかも店の評判はすこぶるいいみたいね?」
「はい。仕事も丁寧で接客もいい。胡散臭いぐらい評判がいいので、埼玉県に出来た新店舗に行ってみたんですが、どうやらスーパーマーケットの新店にくっついて最近店舗を増やしてるようです。」
「て事は、ターゲットは主婦層?」
「ですね。俺、てっきり若い女性や金持ち向けに上手い事商売して金儲けてんだろうと思ってましたが、実は一般庶民、普通の主婦にターゲットを絞った企業なんですね。だから価格も一般主婦に優しい設定になってますし、やはり主婦からかなり評判いいですね。家庭があり自分に使えるお金はそんなにない。毎日の家事であかぎれたりガサつく指やガチャガチャになった手を買い物ついでにケア出来る、そんな言葉が多く聞かれますね。」
「確かに顔は鏡みないと確認出来ないけど、手は何してても見る機会が多いからね。そうかー、私もガサガサすた手で俊介と手を繋ぐの、恥ずかしいって良く思う。手や爪のケアーかぁ。手がキレイなだけでちょっと幸せになれる気持ち、分かるわぁ。じゃあリグレッドは一般庶民に優しい良心的な企業って事かな?」
「ですね。いい企業だと思います。」
「そっか。」
若菜は杉山の報告には信頼を置いていた。