釣れたバイク女子-4
『なら、ジグサーね。車検無いし、名車だし、それに値段がZ900RSの3分の1。それを、2人で共有しなさいよ』
「SUZUKIなら隼にしてくれよ」
『バカおっしゃい。オプション付きの軽バンが買えるじゃないの』
バイクのことが詳しくなければ、誤魔化して大型バイクを買えるが、智美には通用しなさそうだ。
これも全て亨が起因している。昔の趣味が高じて、リターンしようかとも考えていた。ここ2、3年は、バイク関係の雑誌を買ったり、YouTubeばかり観ていたのだ。それを、一緒に観ていた智美も、自然とバイクには詳しくなっていた。
また、ナナのバイク姿に憧れた彩花も興味を持ち始め、それに連動するように、スワップファミリーの共通の話題に成りつつあった。既に明が自動二輪の教習所に申し込んでいた。
そんな話をしてるときに、青色のKAWASAKI Ninja 400が駐車場に入ってきた。
駐車場の入り口付近で、辺りを伺う素振りを見せたニンジャだったが、そのあとは、一直線で、ナナの方に向かってきた。
シルエットは女性。フルフェイスのヘルメットの顎の部分にGoPro、ハンドルに着けたマウントには、360度カメラがセットされていた。
ほかにスペースがあるにもかかわらず、青いニンジャはナナの883の横に停車した。
「こんにちわぁ」
ヘルメットのバイザーを上げたバイク女子が、にっこりと微笑んだ。
『あたし、この人知ってるよ』
インカムから、美奈の声が聴こえてきた。そのバイク女子に声をかけられた3人はおろか、車内の全員も同じことを思っていた。
『バイクに乗ってる芸能人の知り合いが、この人のYouTubeによく出てるのよ』
「そう、モトブロガーのヨシリンだ。大物が引っ掛かったかも」
ヨシリンには聞こえないように、亨が小さくつぶやいたが、スワップファミリーにはしっかりと共有した。