無題-3
帰ろう。
最後の時を、最高な場所で過ごしたい。
家では、娘が料理を作って待っていてくれた。
久しぶりの我が家。
一週間ちょっとしか経っていないのに。
まるで誰かの家に来たかのような違和感がある。
帰る場所があることを感じ、うれしく思った。
それから2か月は
家族で思い思いの時間を過ごした。
妻はわざわざ仕事を休み、一日を一緒にいてくれた。
娘は大学があったが、早く帰ってきてくれた。
みんなで
いつものように
夕飯を食べた。
どんな高級料理よりも
妻が作る料理には勝てなかった。
毎日毎日
食事をほおばり
なにも言わず、俺は黙って泣いた。不思議と溢れてきたんだ。
2人は無理に笑っていた。俺に分からないようにしたつもりかもしれないが、バレバレだ。
でも、そんな気遣いが、心地よかった。
時が流れるのが、こんなに遅いと感じたことはなかった。
三か月もしないうちに、俺は血を吐き再び担ぎ困れた。
苦しい。
苦しい。
喉をえぐってくれ!
肺を取り除いてくれ!
死を覚悟した。
泣きながら俺の名前を呼ぶ妻と娘に
俺は何も言わず、握られた手を握り返した。
俺は
意識を失った。
死ぬんだと、薄れゆく意識の中、そう思った。