消えた西進不動産-2
「いよいよ怪しくなって来たわね、西進不動産。きっと今頃事務所はもぬけの殻なんでしょうね。油断したわ。山田優子をもっとマークしておくべきだったわ。」
貴重な重要人物をみすみす見逃してしまった事に悔しさを滲ませる若菜。白澤や華英にとっても渡辺の命を奪った犯人の手掛かりがまた遠ざかる気がして悔しさを感じている。心なしか白澤の運転する速度が速くなった気がする。西進不動産に急ぐ白澤の気持ちが伝わって来る。
まもなく西進不動産についた。黒基調のお洒落なビルだ。まさかこんないい物件を投げ捨て行方をくらますとは思ってもいなかった。
思惑に反して外から中が丸見えになっていた。ブラインドもカーテンも閉められておらず、中の様子が良く見える。当然人影はなく電気もついておらずひっそりとしていたが、まるで今から社員が来て電気をつけ営業が始められるような、とても行方をくらました事務所には見えない。
「もしかして逃げてはないんですかね?」
「いや、もう9時半よ?ここは9時に営業が始まるからこの時間に誰もいないのはおかしい。昨日、必要最低限のモノを持ち出して行方をくらませたと思うわ。パソコンなんかも置きっぱなしだから、きっと都合の悪いデータだけ抜き取って逃げたんでしょうね。さ、行くわよ?」
若菜の後に白澤と華英がついて車を降りて玄関に立つ。
「ん?鍵が開いてる。」
電源の入っていない自動ドアに手を当て左右に開いてみると、予想に反して開いた。
「開きっぱですか?そんなに慌てて逃げたんですかね?」
若菜は険しい表情を浮かべる。自動ドアを手動で開けて中へと入る。
「人はいないようね…。」
パソコンは電源が切られており机の上にはペンが置かれていたりしている。まるでみんなが一時昼食へでも出かけているような雰囲気だった。
「何か…さっかまで人がいたような雰囲気だな。」
白澤が事務所を見渡しながら言った。
「ですね。ついさっきまで。もしかしたら私たちの姿を見て慌てて逃げたとか。だから玄関のドアの鍵がしまってしなかったとか。いや、そんな場当たり的な事はしないでしょう。それに内通者から私達がこの時間にここに来る事は知っていたはず。鍵が開いていたのには何か理由があるはず。まるでわざと中へ私達を誘い込もうとする意図を感じる…」
この時、若菜は嫌な胸騒ぎを感じた。