告白-1
しばしの沈黙ののち、ようやく塞がっていた啓介の重い口が開いた。
「、、、そのことをお母さんは?」
麻由の話はこうだった。
最初、母親には話さなかった、というより話せなかったらしい。
その後も、何事もなく過ごせたのでそのまま胸に閉まっておこう、と一度は決めたが、半年ほどあと、また犯されたらしい。
それからは二か月後、一か月後、、とだんだん周期が短くなり、麻由は悩んだらしい。
そして遂には、、、あろうことか妹さんにも手を出そうとた。
偶然現場を見つけた麻由が父親を制し、その場で妹の身代わりとなったそうだ。
妹の目の前で、だ。
それを機に麻由は決意したらしい。母親に全てを話そうと。
妹を守るために。
言うまでもなくみさきは激怒し、刑事ごとにすれば麻由の受けた凌辱が表沙汰になるので、それを避ける意味でも、告訴しない代わりに慰謝料と即時離婚を条件に、、この故郷に戻ってきたらしい。
「それは、、、知らなかったとはいえ申し訳ないことをしてしまって。こないだも辛かっただろ?」
本当に申し訳ないと思う反面、、興奮は倍増した。
男はこういうとき、どうしようもない。
「あ、いえ、、そんな経験をしてたからこそ、そんなに気にはしてません」
そうか、、、この子のどこか陰のあるオーラの根幹は、この体験のもと、あったようだ。。
それに、、、麻由が話を続ける。
「こないだの人たち、みんなおじさんばかりだったでしょ?あれじゃお父さんというよりおじいちゃんに近いし」
ときどきこういう「毒」を吐く。
確かに、最年長で六十近かったから麻由からすれば「父」というより「祖父」だ。。
「おじいちゃんは酷いなぁ、、じゃあ俺もなの?」
「ううん、、オーナーは母と同級生なんでしょ?それに若く見えるので、ちょうど、、父くらいというか」
また少し表情を曇らせる。
「わかった、、お父さんの話はもうよそう」
無理をしてるように見えるがそうではないと言い、麻由は続ける。
口調は、以前では考えられなかったほどフランクになっている。
「いえ、いいんです。こないだされたことなんかより酷いことを・・・父にされたことあったので」
それっていったい・・・聞いてみたいがさすがに聞きづらい。
「そのくらい、、私ってもう薄汚い女なんです」
憂いた表情で麻由は話を続ける。
「普段から真面目だとか清楚だとか、そういう言われ方されること多くて、、そのほうが辛いです。
だからありのままの私を、最後に橘さんに見てもらえて、、よかったかも」
「おいおい、そんな言い方しないでよ。まるで今日でお別れみたいじゃ、、、」
啓介の言葉を遮るように麻由は、
「だって、、こんな女、店に置いとけないでしょ?」
顔を埋めた麻由は、また大粒の涙を落とし泣き始める。
そして無理矢理の笑顔で、
「あ、週末には帰ってくるのでお土産、持ってきますね。それと、、、」
それと、、なんだい?
「お世話になったお礼に、、何か出来ることありますか?」
健気な言葉に、今すぐ抱きしめたくなる。
「私に出来ることがあれば」
少し考えた末に、
「じゃあ、、二つあるんだけど?」
麻由はまだ涙目のままクスっと笑い、
「こういうときに二つ言いますか、ふつう・・・いいですよ、一応二つとも聞かせてください」
笑いながらそう言う麻由に、啓介も遠慮なく話す、
「ひとつは、、あんな話聞いた後で言いづらいけど、、おとといの連中が二回目を希望していて、、、」
麻由は複雑な表情を浮かべて、、
「・・・そうなんですね、、、その返事、旅行から帰ってからで構いませんか?」
即断られると思っていたが、、意外すぎる返事だ。
「で、、もうひとつは?」
啓介は麻由の手を握り、
「辞めないで欲しい」
、、、みるみるうちに麻由の目は涙目で溢れ、
「、、、いいんですか?辞めなくて?」
「もちろんだ」
抱き寄せた麻由は、声を上げて泣いた。
これまでで一番激しく泣いた。
まるでこれまでの苦しみを全て吐き出すかのように。