邪心-1
麻由が仕事に就いて三ケ月が過ぎようとしていた。
「あの、オーナー、、、ご相談したいことがあって・・・」
とある日の閉店後、啓介は麻由からこのような申し出を受けた。
「ん?どうしたの倉田さん。なに?」
まさか辞めたいとか言うのでは、、、せっかく麻由のお陰で売り上げも伸びてきたのに・・・
啓介は不安げに彼女の話を聞いてみる。
しかし相談の内容は、啓介が全く予想してないものだった。
「実は、、今度友達と旅行を計画してるんですが・・・」
それを聞いた啓介は、ほっと胸を撫で下ろした。休みをとりたいという程度なら全く問題はない。
と、思いきやそうではなく、
「で、まとまったお金が必要で、、、でもお母さんには負担かけたくなくて」
なるほど、そういう話か。
話自体は啓介の想定外ではあったが、母親に心配を、という事情はよく知っていた。
彼女の母親は離婚してからと言うのもパートをしており、元亭主からの慰謝料を合わせても
楽ではない、と啓介は聞かされたことがあった。
麻由は長女で大学生、下に高校生の妹と弟もおり、確かに楽ではないだろう。
「麻由さん、それは幾らくらい?」
啓介は時々、彼女を名前で呼ぶこともあった。
「十万くらい、、、」
・・・だろうな。
旅行ともなればそれくらい持ち合わせがないと。
しかし売り上げが伸びているとはいえ、啓介の店にとって簡単に出せる金額ではない。
母親のカラダでも担保にしてくれれば考えてもいいのだが・・・と冗談交じりに考えたりもする。
母親であるみさきは昔、それなりに人気者だった。
旬は過ぎた、と言ったら本人に怒られるが、それでも憧れの同級生を抱けるなら、啓介にとって目を瞑ってもいい金額だ。
そんな妄想のなか啓介は、思わず目の前の麻由の美脚に邪な視線を向ける。次いでその慎ましい胸元にも・・・
啓介の脳裏に、よからぬ考えがよぎった。それならいっそ麻由自身が「担保」になるというのは、、、どうか?
「麻由ちゃん、、、申し訳ないが、助けてあげられる金額ではないな。その代わり仕事を探したげようか?臨時で出来る仕事を」
麻由は、よほど帰厩していたのであろう、
「お願いしてもいいですかっ」
彼女らしい、明快な返事が返ってきた。
聞けば旅行は来月で、申し込みのために金は二週間後には必要らしい。
そりゃあそもそも無茶な話だ。二週間でそんな大金・・・
それだけに麻由も必死なのだろう、
「この際何でもやりますから」
と威勢のいい言葉まで出る。
「よほど楽しみなんだね。その旅行・・・」
「いえ、、、というより・・・キャンセルすると友達に迷惑がかかってしまうので」
ドライな、麻由らしい回答だった。
何でもやる、、、ね。
果たして、言葉通りの覚悟が彼女にあるのだろうか。
麻由が帰ったあと、すぐさま高尾に相談を入れた。
高尾なら、、、麻由に興味があるだろうと啓介は考えた。
予想通り、高尾は大乗り気であった。
そして彼のアドバイスで啓介は、ある人物に相談を持ち掛ける。
麻由は、身長は百五十センチは一応ありそうだが、、、小柄だ。母親も大きな人ではないが。
身長はともかく体型は、、とにかく細身で、恐らくもう少し肉付きがあったほうが男受けはよいのだろう。
もちろん好みなど人それぞれにあるが。
伴い、バストも残念な大きさであろうと目された。
仕事中、服装によっては彼女の胸元が垣間見えることはしばしあった。
麻由のそれは明らかにB、違っていてもCではなくAだろう、という大きさだろう。
しかし、それらを差し引いても彼女の魅力は大きかった。
友人の、みさきの娘でなければ、、、というような妄想を啓介に抱かせることが、この短期間でも何度となくあった。
この歳にもなって倍以上も離れた子を・・・
それでも、もし抱くチャンスでもあれば・・・そのときは、自分でなくても男なら躊躇はしないだろう。
まるで、自分の「罪」を正当化するかのように啓介は、そう自分に言い聞かせた。