友人の娘-1
「橘くん、、ちょっといい?相談があるんだけど」
皐月の風が心地よい昼下がり、、、このカフェの主である啓介を倉田みさきが呼び止める。
「なに、どうしたの?」
みさきと啓介は、小・中学時代を共にした所謂「幼馴染」である。
二人は生まれ育ったこの街に住んでおり、啓介はニ年ほど前からこのカフェバーを営んでいる。
一方、みさきはというと、一年ほど前に離婚し、三人の子供たちと一緒に実家のあるこの街に戻ってきていた。
再会したときに懐かしさから昔話に花を咲かせ、それからも互いに近況を報告し合い、みさきは時々啓介の店で午後のひとときを過ごしていた。
呼び止められた啓介は、さほど忙しい時間帯ではないので彼女のいるテーブルに腰を下ろす。
「実はさ、うちの長女がバイト探してて、、橘くんのお店ってどうかな、と思ってさ」
たしか彼女の娘は、二十歳過ぎで大学生だと、啓介は記憶していた。
「ああ、、ちょうどいいよ。こないだひとり辞めてさ。シフトに困ってた。だからこうして俺が店出なきゃいけないことも多くて・・・」
「そうなんだ、じゃあ娘に話してみていい?」
みさきは昔から気が早い。
「ああ、是非頼むよ。面接に来てくれる日時が決まれば連絡してよ」
こうして啓介は、友人の娘である麻由との接点が生まれた。
「失礼します、、こんにちは」
約束の時間を少し過ぎたくらいに、麻由はやってきた。
「やあ、、はじめまして。橘です。倉田さんだね?」
なかなかの美人だ。それが啓介の第一印象であった。
母親のみさきももそうだが、タイプが違う・・・というかあまり似てない。
父親似なのかもしれない。
長すぎず、しかし短すぎないスカートからは、白く細い脚が伸びる。足元はウェッジ・ソールのサンダル。
ノースリーブからは、同じく白く華奢な手、それに指・・・マニキュアは、ルージュと合わせたパステル・ピンク、、、白い肌に華やかにマッチする。
そして憂いのある深い黒の瞳を、長く綺麗なまつ毛がコーデする。
思わす啓介は見惚れた・・・
出会いの数秒で彼が抱いた感想だった。
「あ、どうぞ、座って」
面接といっても身内のようなものなので、業務内容と条件面の説明程度である。
それを麻由が了解であるなら雇用契約は成立だ。
(ほんとに綺麗な子だ、、、芸能界でもやっていけそうだな)
アルバイトの、しかも接客の経験はあるらしく、業務内容に関しても特に彼女から質問はなかった。
「倉田さんは卒業後は?」
「じつは、、、未だ決めてなくて・・・」
唯一、意外な回答だった。しかしこちらにとっては好都合とも言える。卒業後もこんな子が働いてくれるのなら・・・
「はい、、宜しくお願いします」
麻由は、早速明日から啓介のカフェに従業員として勤務することとなった。