夢想の楽園-4
杉浦は諦めた。
期待するから傷つくのだ。裁きが下されると、そんな期待をするから悔しくなる。
諦めて、諦めて、全て諦めてしまえば良い。
それでも苦しいけれど、あんな連中に期待したって仕方がない。
そうやって考えて来た。
「すみません―――杉浦さん」
「あんたはよくやってるよ。だから、あんたは悲しむな。俺はもう良い。諦めたよ。理解出来ない奴らに何云っても無駄だ」
深い溜め息をついて―――谷町を見つめる。
「俺の家族の死に意味なんかねえ。あいつらの犠牲になって死んだだけ、そんだけだよ」
意味があると思いたかった。
無駄な死にはしたくないと思った。
だが、この世にそんな事を期待するだけ馬鹿だったのだ、杉浦は思う。
「だから苦しむなよ。損だ。あんたみたいな人が苦しんだら可哀相だ」
暴力を振るうなんざ、男のやる事じゃない―――杉浦の父はそうやって雄三を育てた。
だからずっと、人は大切にするものだと思っていたし、それが当たり前だと思っていた。
だが違った。世の中は残酷で冷酷だ。
先に殴った方が結局は勝つのではないかと杉浦は思う。
それでも。
それでも、杉浦は暴力が嫌いだ。
そんな自分が歯痒くもあるし、安心もする。
殴ったり犯したり裏切ったり、そんな事が当たり前の人間に―――犯人達のようにはなりたくないからだ。
「何人死のうが強姦されようが、虐待されようが、結局他人事なんだ。よその子供が殺されようと司法は気にしない。何人死んでも気にしない。どうせ変わらんよ」
「確かに無理解な判断もあります。ですが」
「解ってるよ。考えてくれる人間も居るだろう。あんたみたいな人間も居るんだ。でもな、期待すると苦しいんだよ」
頭を抱えて、杉浦は呻く。
どれ程夢想しても、犯行内容が頭をよぎる。
そして考える。
娘がどんな気持ちで死んで行ったのか。
どんな気持ちで叫んだのか。
どんな気持ちで助けを乞うたのか。
そして、その犯人達が許されて行く時―――娘はどう思うのか。
「あの犯行の供述を聞いて反省の可能性があるだなんてな。時代がどうだ、まだ解ってなかったなんて云い訳はいらねえ。馬鹿なだけだよ。現実を見てねえ。司法試験通っててもな、そんな判断するのは馬鹿だ」
谷町はうなだれた。
「また、救えなかった」
「違うよ」
呟きに、小声で答える。
「仕方がねえんだよ。あんたはよくやってる。立派だよ」
唇を噛み締めて、谷町は震えた。