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夢想の楽園
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夢想の楽園-5

「やっぱり、悔しいです」
「ああ。悔しいな」

加害者に、被害者は勝てないのか。
おそらくそうだ。

杉浦が犯人もその家族も、全てを殺してもまた新しい加害者が生まれるだろう。

そして―――その犯行の殆どは防げないのだろう。

「谷町さん。頼みがある」
「はい」

杉浦が云うと、谷町は顔を上げた。

「まだあんまり来てないがな。報道は断りたい。あんたから見て、事件を真面目に報道して問題をちゃんと探ろうとしてる記者なら答えても良いが、ワイドショーはお断りだ」
「解りました」
「あとな。これは俺が云う事じゃないかも知れんが、今回の事件の遺族を助けてやってくれないか」

杉浦を見つめ、谷町は頷く。

「一応連絡はしたんですが、まだ混乱していらっしゃって」
「だろうな。だが裁判はキツいよ。谷町さん、側に居てやってくれ。お願いだ。向こうの気持ちもあるから解らんが、なるべくやってくれ」
「勿論です」

谷町の答えを聞いて、杉浦は微笑んだ。

「頼むな。俺はこんな事になったがな、あんたと会えたのは嬉しいよ。ありがとうな」

杉浦が云うと、谷町は目を閉じて頷いた。

「俺達みたいな被害者はもう、失った時点で元に戻れないんだ。なのに、今の制度じゃ何度も何度も苦しみを味わう。その時あんたが居たら、ちょっとはマシになる」

ちょっとは可哀相か―――と杉浦が笑うと、谷町は首を振った。

「少しでも良いんです。辛い時に支えになれたら、少しでも」
「ああ」

杉浦は思う。自分が裁判を妻と傍聴していた時、谷町が横に居たら―――さぞ心強かっただろうに、と。

ゴミと騒音と噂を撒き散らし、大した意見も云わずに事件を忘れてしまう報道を規制してもらえたら―――どれ程楽だっただろう、と。

自分達の話を真面目に聞いて取り上げてくれる記者だけを相手に出来ていたら、どれ程気が楽になっただろうと。

杉浦にとってそれは、全て夢想でしかない。


だが谷町が居たら、誰かにとってそれは現実になる。

失ってしまったものを取り返せはしなくても、傷はまだ少なくて済むだろう。

だが、谷町や、犯罪被害者支援をしている他の弁護士達の力にも限界がある。

するべき事は多く、改善出来る事は数え切れない程あるけれど、それが実現するのは遥か遠い年月の向こうだろう。

知っている。解っている。だからもう、杉浦は期待しない。

「もう、苦しむのはたくさんだ」


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