相賀美奈の休日-1
【相賀美奈の休日】
相賀美奈(アイガミナ)は、とぼとぼと山間の脇道を歩いていた。
その顔が浮かないのは、人通りが全くない脇道で迷っていたからではなかった。そもそも、ここまでの遠距離を、美奈自身が新幹線とタクシーを乗り継いで来たのだから、迷うはずはなかった。
ここに来るまでも、人目に触れたくなかった美奈は、大きめマスクとサングラスを付け、キャップを目深に被っていた。
若い美奈の重々しい様相と、指定された場所に戸惑う運転手をよそに、美奈は素早く降車した。
県境の標識のあるそこは、余り車の通らない山間の県道で、特になにも無い場所だった。
そのタクシーが見えなくなってから、美奈は少し県道を進んだ。一旦立ち止まり、キョロキョロと辺りを伺ってから、目立たない脇道に入っていった。
帰りの心配もしていない。電話が圏内であり、下車したところの県境の標識の場所を伝えれば、タクシーが来てくれることは、前回来たときに経験済みだ。
そんな美奈が、ブツブツと不満を口にしながら、山道を歩いていた。
「もっと、違う役もやりたいのに」
つぶやきの内容が示すとおり、美奈は女優だ。子役の頃から愛くるしさが定評だった。美しく成長した今でも【可愛い美奈ちゃん】のイメージが付き纏っていた。しかし、もっと幅広く演じたい美奈には、今の状況は物足りなかった。
「アクションとか、レディースの総長みたいな役もしたい。女詐欺師とかも。それと…」
子役といえば、環境的にその精神は幼い頃から成熟するのが常だ。特に美奈は『演技を学ぶため』と称して、幼い頃から自由に使えるタブレットを与えられていたことが、それに拍車をかけていた。
勉強熱心な美奈は、多種多様のジャンルの作品に目を通していたが、成長に連れてアダルトな内容にも及ぶようになっていた。
「はぁ、はぁ、す、凄い…」
こんなに人の意識に影響を与えることは自分にはできていない。そんな自分が不甲斐ないと美奈は感じていた。
ネット環境に疎い両親を尻目に、いつしか美奈は、AV作品のヘビーユーザーになっていった。
「はぁ、はぁ、あんなに気持ち良さそうに…」
美奈は興奮しながら、卑猥に喘ぐ演技を真似ていたが、同居する両親に気づかれることを恐れて、画面の女優のように、大きな声を出せずに吐息を洩らしていた。
それでも初めは、作品の内容を追って演技を観察していた。それが、前置きを飛ばして、即濡れ場鑑賞になるまでには、そんなに時間はかからなかった。今は無修正を好んで観るに至っていた。
こうして、小学生の高学年の頃からオナニーを覚え、中学に上がる頃にはそれが日課になっていた。