横芝の反撃-9
一服し終えた所で再び坂下秀徳から電話があった。
「あーすまないね。そう言えば来週の家電ショーには来るのかな?」
「ビッグサイトでしたよね?今回は行こうと思ってます。いよいよ横芝の復活の時ですからね。冷蔵庫、話題ですね。」
「ありがとう。招待状は届いたかな?」
「ええ。まぁ総監様が頑張って捜査してるトコ、何ですが。」
「しかし中々面白い警視総監だな、彼女は。まるでドラマの世界だ。」
「フフフ、しかし大したモンですよ。片田舎の市長の全裸張り付け事件と言う、さほど大きなヤマではない事から何かを嗅ぎつけたんでしょうね。その裏に隠れてる大きな大きな何かを。」
「まさか3億円事件の真相を暴くとは思わなかったよ。今まで何万人の刑事があの事件を追ってきたが辿り着けなかった真相を暴いて見せるとか、彼女1人で何万人の刑事分の力を持ってると言う事か。」
「そうですね。非常に優秀です。優秀と言う言葉が安く感じてしまうぐらい優秀です。それに魅力に溢れてる。気付くといつのまにか彼女に注目してしまう。彼女のような人間を神と呼ぶのかもしれませんね。」
「さすがあの杉山君が見込んだだけはある。」
杉山とは、サーガ事件の時に旅客機テロで飛行機が警視庁ビルを破壊した際に命を落とした杉山義教の事だ。その前の田口徹による娘誘拐事件で失職した加藤正剛から警視総監を引き継いだ男だ。杉山は非常に信頼を受けていた警視総監だった。彼なら腐った警察を正しい道に導けると言われたぐらいに素晴らしい人間だった。田口徹を殺害したのにも関わらず若菜が警察に復帰出来たのは杉山の計らいがあったからだと言われている。秀徳も親交があり休日にはゴルフに行った事もあった。
「ところで杉谷君の息子さんは元気か?」
片山はニコッと笑う。
「ええ。今は警視庁で公安部に所属してますよ。総監の依頼を受け、良く働いてますよ。最近ようやく優秀と呼べるレベルに達して来ましたよ。」
「そうか。じゃあ安心だな。良かった。では家電ショーで会うのを楽しみにしてるよ。」
そう言って電話を切った。
萬岸署で宮下杏奈の元で鍛えられ、後に若菜の手引きで公安部に配属され、若菜から依頼された任務を必死でこなす刑事、そしてマギーの元彼である杉山は、故・元警視総監である杉山義教の息子、杉山祐希なのであった。
「総監は気づいているんだろうな。じゃなきゃわざわざこの捜査に加わらせないだろうから。」
片山はそう思いながらまだ重なっている書類に判を押すのであった。