横芝の反撃-8
警視庁総務部、溝口宏は来週支給される給与の準備をしていた。毎月この時期が忙しくて憂鬱だ。給付された日には必ず1人はいちゃもんつけてくる輩がいるからだ。残業代が少ない、交通費が足りない、その他諸々。そう言った問い合わせが必ずある。
「だいたいそんなのテメーんとこのボスに言えっつーの!こっちは知ったこっちゃねーんだよ!」
庁員の給与をまとめて警務部に早く渡さなければならない。渡すのが遅いと、今度は警務部からクレームが来る。損な役回りだ、いつもそう思う。
「だいたい俺が福岡に出張するなんて、どーしておかしいと思わなかったんだよ!」
今までほとんど出張などなかった。だがおだてに弱い溝口は片山に、いつも良く働いてるご褒美だと思って楽しんで来いだの、君のおかげで財務管理がしっかりしているだのおだてられてすっかりその気になってしまった。接待でソープまで楽しみ満喫してお土産まで配った自分が情けなくなった。
「しかし今まで何の興味もなさそうで、自分の目立導入に口出しなんかして来なかったのになぜ今回いきなりしゃしゃり出て来たんだろう…」
隠れ目立の庁員をまとめて目立の優先購入を行なって来た溝口は納入業者の決定についてほぼ独壇場だった。今回も順調に行けば目立製品の多くが来季導入されるはずだった。しかし片山の陰謀でそれが崩れ去り謙也から貰っていた目立導入に対する報酬は今回ない。当てにしていた報酬がなくなり仕事に身が入らない。
「隠れ目立の奴らは口を割らないし、一体どんな手を使ったんだよ、片山さんは。」
片山は特に汚い手を使った訳ではないが、溝口は疑心暗鬼になってしまう。と同時に自分と謙也との関係がバレたのではないかと言う不安に包まれている。
「バレたらヤバいよなぁ…。いや、わざわざ品評会から自分を追い出したんだ、もう気付いてるのかも知れない…。何か対策しとかなきゃ…」
副総監室。大量の書類に判を押し終えた後、コーヒーを飲み一服する片山。
「ったくうちの総監様は現場がお好きだ。まぁそれが彼女らしいしあんな小さな部屋にどじ込められて満足するような器じゃないしな。彼女みたいな正義が警察のトップに君臨しているうちに目立問題を一気に幕引きしないとな。総監様は私のパスに気付いたかな?フフフ」
そう言ってコーヒーを飲み干した。若菜なら今まで目立が警察への大きな納品シェアを占める事ができた理由を調べると思っている。自ずと溝口に辿り着くだろう、そう考えている。