将軍の裁き-1
【将軍の裁き】
いつもだったら、吉宗と2人きりになる事に、お露は喜びを感じていたが、今はこの状況が怖かった。
「へ、部屋を片付けまする」
お露は、気詰まりから逃れるように、手にした手拭いで、精液で汚れたら床を拭き始めた。
「わけを聞こうか」
「うっ…」
お露の手が止まった。それだけで吉宗が、全てを見抜いていた事をお露は察した。
「この吉宗が気付かぬとでも思うたか?そもそも、赤玉の事を知らぬと思うは、侮り過ぎじゃ」
そう、【影】は自分だけではないのだ。お露は慢心していた事に気付かされた。
「あぁ…」
将軍への背信は死を持って償わなければならない。お露は咄嗟に太刀置きに手を伸ばそうとしたが、吉宗が身体をずらしてそれを制した。
「させぬ」
「も、申し訳ございません」
自害もできない未熟さを悔やみながら、お露は平伏した。
「情が移ったか」
お露の身体がピクリと震えた。
「はい…」
か細い声でお露は答えた。
「この吉宗からあの姉弟を守ろうとしたのじゃな」
もう、隠しても仕方がなかった。お露は顔を上げて吉宗に向き合った。
「はい。この先、あの姉弟は波乱万丈の生涯を生きる事になりましょう。ならばせめて、今のこの時を仲睦まじく過ごさせたく思ったのです」
お露は仲の良い2人の姿を思い浮かべて、心を和ませた。自分は愛する者の子供を持てない身、お露は叶わぬ母性を、2人に感じていたのだ。
そんなお満の絶頂が、必ずしも絶頂波を起こす事がなく、吉宗とも普通に性行為が可能である事、更には赤玉の効果を得ると、その絶頂波にも堪えれる事を知ると、吉宗はお満を手元に置きたがるはずだ。
吉宗がそれを望めば、ただ、竿之真を配下に入れるだけで済む。しかし、竿之真が侍の名誉である徳川家の直参になったとしても、お満が吉宗の思うがままになれば、2人に幸はない。
それらの事を、心中に秘めるだけならば、辛うじて任を続ける事ができたが、お露は将軍の意より、母性を優先してしまったのだ。