八代将軍吉宗-6
「…と、言うわけでございました」
報告を終えたお露だったが、影共の雫が初めの絶頂波で気を失ったままだった事もあり、吉宗には赤玉の事は報告しなかった。これは吉宗を心酔するお露にしてはあり得ない事だった。
「なんと、相手だけでなく周囲をも巻き込む秘剣とな」
吉宗が興味を示した。
「そうです。【秘剣露時雨秘裂返し】。その名の通り、このように木刀でおまんこの割れ目を擦り上げるのです。はうううっ」
木刀に模した指先を割れ目に挟み、それを擦り上げて秘剣の形を示した。指先に絡んだお露の愛液が、その勢いで飛び散り、吉宗の顔を汚した。
「あっ、も、申し訳ごさいません」
お満こだわりの残心の形も決まらないまま、お露は慌てて平伏した。
「赦す」
その技に興味津々の吉宗が、怒るはずはなかった。
「その秘剣、興味が湧いてきたぞ。我が前で披露、いや、この吉宗と勝負させよ」
「へっ?勝負と申しますと…」
「そう、勝負だ。全てを巻き込むのであろう。しかし、それが将軍の胆力にも当てはまるものなのか。その絶頂の念に堪えれば勝ち、精を放てば負けでどうじゃ?」
御前披露までは求められると考えていたが、吉宗の考えはお露の想像の数段上を行っていた。
「き、危険でございます。万一の事を考えれば、上様の威光にかかわります」
「何と申す。日々そなたの締め付けに堪える胆力ぞ。心配せずともよかろう」
「わ、私のまん力の締めなど、所詮人の為す事。なれど、あれは人外の技にございます。御前披露だけで、お納めいただきますようにお願いいたします」
「ふふふ、ますますもって面白い。人外の技が勝つか、将軍の威光が勝つか。これは見物よのう。そうだ、忠相(ただすけ)も呼べ。将軍の威光を広く市中に示す機会じゃ。南町にもお膳立てさせて華を持たすのじゃ」
自信満々の吉宗は、これを公開試合として、懐刀である南町奉行、大岡越前守忠相に仕切らせようと考えたのだ。
「これで将軍親政が、さらに進む事であろう」
「そ、そればかりはお納めください。何とぞ、何とぞ、我が命に変えてお願いいたします」
将軍が一度口にすれば、全て実行しなければならない。しかし、絶頂波の破壊力を知るお露は、この場に他者が居ない事もあって、自身の命を犠牲にする覚悟で止めに入った。
「そなたがそこまで言うのは珍しいな。この吉宗が負けると見たか」
将軍が負けるとは口が裂けても言えなかった。
「ご、ご無礼を…」
お露は太刀持ちが置いていった刀に飛び付くと、それを抜いて自分の喉を突こうとした。
「赦さぬ!」
吉宗が投げつけた扇子が、お露の手に当たり、手にした刀を取り落とした。
「上様…」
吉宗の敏捷な動きに、くノ一の自分が反応できなかった。信じがたい事態に、お露は呆然とした。
余り知られてはいないが、吉宗は徳川家に伝わる秘剣の奥義を習得していたのだ。これは当時最強だとされる柳生新陰流を凌駕していた。吉宗の胆力は、これが裏打ちされてのことだった。
「雫が育っておらぬのに、勝手な真似は赦さぬ。今の雫にそなたの代わりができるとでも?」
「お、お赦しを…」
自害後の吉宗の身の回りの事に、思い馳せなかった浅慮を、平伏したお露は悔いた。
「そなたの命に変えての換言、聞き入れたぞ。もう、するなよ」
お露の肩に手を置き、吉宗は優しく声をかけた。
「うううっ…、ありがたきお言葉…」
こうして、お露はますます吉宗に心酔していったのだった。