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バニラプリン
【ホラー その他小説】

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バニラプリン‐後編‐-1

キッチンの床に皿の破片が散乱している。

愕然としながら、飛び出るかと思うほど大きく眼を見開いている母。

正直、今までこんな母の表情を見た事が無かった。


あたしはバニラプリンを追加で30本購入したその日から、一日に3本ずつ飲む事にした。

思い起こせば最初にバニラプリンと出会った日。去り際に老婆から言われた事。あれは忠告として受け止めるべきだった。

しかしながらあの時のあたしは聞く耳を持たず、故にその言葉は今も記憶の片隅に置き去りとなっている。

『一日に1本だけ飲むがよい。良いか? 1本だけじゃぞ』

なんで1本だけなんだろう?

なぜ一日に2本以上飲んではいけないというのか。

あの時の老婆はその理由までは言及しなかった。

確かな理由がわからない故に、いや、一日2本以上飲んではいけない理由なんて全く思い付かなかったから、あるいはあたしの想像の範囲内ではなかったから、老婆の言いつけをあっさりと破ってしまったのだろう。

昨夜あたしは3本飲んだのだ。

だが起床してみれば腹痛にもならなかったし、吐気もしなかったから、特に異常は無いのだと思った。

たった今、母の表情を見るまでは。

あたしは起床してすぐにシャワーを浴びようと、一階のバスルームに下りていった。

ちょうどその時に朝御飯の支度をしていた母に声をかけた途端に彼女の表情は固まり、手に持っていた皿を落としたのだった。

その青ざめた表情が何を物語っているのかすぐには理解できなかったものの、あたしは本能的に嫌な予感を覚えた。

そういえば今朝はまだ鏡を覗いていなかった。

(まさか…)

あたしは呼吸する間も無く洗面所に駆け込んだ。

鏡の中の自分と目が合う。

その刹那、両者は先ほどの母のように、いや、それ以上に眼を見開いたまま凍りつく。

鏡という境界線を中央に挟んで数分の間、お互い睨み合う。

心は完全に崩れていた。

今にも狂気に溺れてしまいそうだ。

辺りが何もかも真っ白になるとはこういう事を言うのだろうか。

これでようやく母の表情が理解できた。


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