バニラプリン‐後編‐-4
──数日後
高山香織は行方不明となり、親族から捜索願が提出された。
クラスメートも、あの朝教室に入ってきた老婆が高山香織であった事など知る由もない。
世間では?美少女?失踪事件として扱われている。
その頃、夜の商店街をさまよう老婆の姿があった。
全ての店はシャッターを下ろし、灯りは見当たらない。
「おやおや、可哀想にねぇ。こんな姿になっちまって」
暗闇の中からしわがれた声が聞こえてくる。
老婆がもう一人の老婆に話し掛けている。
「…ダレ?」
「もう忘れたんかの?お嬢ちゃんが最初にバニラプリンを買いに来た時に出会った老婆を」
「…忘れてない」
「お嬢ちゃん、おぬしは結局飲み込まれてしまったんじゃよ。バニラプリンにな」
「…そうかもしれない」
「人間には誰しも欲望が眠っておる。バニラプリンにはその欲望を目覚めさせるという副作用があったのじゃ」
「……美の欲求」
「そう。おぬしは元々それが強かったせいで副作用が起りやすかったのじゃ。だから警告しておいたのじゃが…無意味だったのぉ」
「……」
「そして第二の副作用がそれじゃ。おぬしのその姿じゃよ」
「…老化作用」
「うむ」
「…もう…戻れないのね」
「苦しいか?」
「……」
「なら、これを飲みなされ」
「…虹色」
「あの時、見たであろう。これは…今のおぬしが飲めばよい」
「…なぜ」
「おぬしのためにあるからじゃ」
「…でも」
「これを飲めば、おぬしの願いは無駄にはなるまい」
「……」
「じゃ、ここに置いていくからの」
「…ありがとう」
「礼など要らぬ」
虹色に輝く液体。その瓶を一本置いて立ち去る老婆。
そしてもう一人の老婆はその蓋をとり、そっと飲み始める。
七色の光の粒が暗闇の空を舞う。
「次は人間なんかに生まれてくるでないぞ。わしは一人で充分じゃから…」