バニラプリン‐後編‐-3
あたしが滑り込むように校門を抜けていくのを見て一気に顔色を変えたのだ。
それはとんでもないモノでも見てしまった、という表情で硬直していたのだ。
あたしの美しい容姿に見とれていた、と解釈するには無理があった。
事の重大さに気付かないまま生徒玄関で上履きに替え、教室に向かう。
廊下にはやはり誰も居なかった。
各教室では既に朝礼が始まっているのだろう。
やがて自分の教室の前に着き、ドアに手を伸ばす。
ああ、さすがに遅刻した事は担任に叱られるだろうな、と思いながら一気に教室と廊下の空間を繋げる…が、担任やクラスメートの反応は予想外なものだった。
全員、何とも不思議な目でこちらを凝視している。
そして次の瞬間、あたしは本当の恐怖に直面する。
場の沈黙はこの一言によって破られた。
「あの…父兄の方でしょうか…? でしたら今日は参観日ではありませんので御遠慮下さい」
担任が何故か震えながら述べた。
そしてようやく教室内がザワザワとし始める。
聞こえてくるのは──
‘おい見ろよ。ババアがうちの制服来てるぜ'
‘俺もマジでビビった'
‘いるんだねぇ、コスプレ好きな年寄りが'
‘絶対にボケてるよね'
それらの言葉が自分を指しているのだと悟るのは発せられてわずか2秒。
次の瞬間には両耳を塞いで走り出した。
視界は既に揺らぎ、精神は狂気に満ちていた。
まだ一限目の授業も始まっていない学校を飛び出し、ひたすら叫び、走り続ける。
やがて辿り着いたのは誰もいない公園。
あたしは隠れるようにしてトイレに駆け込む。
ふと、その中の鏡に映る自分と目が合ってしまった。
その刹那、膝に力が入らなくなり倒れそうになった。
洗面器に掴まり、何とか体を支える。
鏡の中にいるのは老婆だった。
しかし、さっきのクラスメートの反応から、これが現実であり夢ではないという事が明らかだ。
(なぜ……なんでなの!)
視界は段々と暗くなっていく。