バニラプリン‐後編‐-2
驚いて当然だ。
なんせ今のあたしは間違い無く世界一の美女なのだから。
こんなルックス、テレビではまず見た事がない。
ハリウッド女優でもいるはずがない。
もはや人間の域を超えている。
西欧の人形そのものだ。
ただ美しいというだけでなく、どことなく無機質で生身の体とは思えないというのもその理由のひとつ。
しばらくして我に返り、鏡から離れようとした自分に異変が起こる。
(うっ…何かが欲しい)
物凄く欲求が働いている。あたしは突然の変化に恐ろしくなり、必死に理性を効かせようとするが、敵わない。
とにかく欲しいのだ。
得体の知れない存在によって支配された本能の赴くがままに、あたしは自宅の階段を駆け上がる。
気が付けばあたしの部屋に来ていた。
あたしの本能は一体何を欲しているというのか…。
両眼の焦点が結ばれたのは、部屋の隅に置いてあった段ボール箱。
残り27本の未開封の瓶には肌色の液体─バニラプリンがびっしりとパッキングされている。
あたかも体ごと突っ込むかのように両手が箱の中に伸びる。
これを飲む時間帯は就寝前と決めてある。
毎日同じ時間帯に一本だけ飲まねばならない。
今は…起床してまだ一時間も経過していない早朝だ。
にも関わらずバニラプリンに手をつける。
二分くらいしてから気付いた。
いつの間にか全ての瓶が空っぽになっていたのだ。
しまった…と思った。
一瞬だが、あたしはこの時になってようやく正気に戻ったのかもしれない。
そして強烈な後悔とともに蘇った記憶がひとつ…。
『一日に一本だけ飲むがよい。良いか? 一本だけじゃぞ』
あたしの体はわなわなと震えていた。
たった今、はっきりと思い出したその言葉からは何が想像出来るだろうか。
ただ、想像しようとすると異様なまでの恐怖に取り憑かれる。
とにかくそれを振り払おうとして立ち上がったとき、部屋の壁に掛けてあった時計が目に入る。
(まずい! 早くしないと遅刻しちゃう)
急いで制服に着替えたあたしは階段を駆け下り、そのまま家を飛び出す。
校門の前まで来たときには、既にチャイムが鳴り始めていた。
そこには教師が一人立っていて、いつもなら遅刻寸前に登校してくる生徒を注意するのだが、今回は違った。