陽炎-8
分かってた。
私が春人に対して愛を持ってしまったことくらい…だから苦しかった。
一夜を過ごしてしまったとき、『つき合おう』って言葉を期待した。
「つき合ってた期間が短いほど、期待しちゃうの。未来を見てしまうの」
車の中、姉はぽつりと言った。
今までつき合った中で、春人は一番短く、大した思い出もなく終わった。
だから、あるはずだった未来を期待してしまったんだ。
セフレでもいい。
春人と繋がっていられるなら。
なんて浅はかな考えをした。月も星も太陽も八木のまっすぐな目も…全部眩しくて痛かった。
「人を好きになるとみんな滑稽になってしまうものよ」
姉はそれっきり口を開かなかったし、何も聞かなかった。
馬鹿なことをした。
自分の考え・したこと…寂しかったからじゃない。
春人が好きだった。
久しぶりに逢った元彼の変わらぬ空気と、かっこよさに…心奪われてしまったんだ。
「この前はいきなり帰ってごめん」
「おう」
昼間の公園に春人を呼び出した。
あることを切り出す為。
「もう終わろう、この関係」
春人は視線を下に落としたまま短く答えた。
「………おぉ」
春人の表情からすると分かっていたようだった。
「無理だよ、好きになっちゃうから」
「………」
「もうこの関係は成り立たない」
汗をタオルで拭った。
すると、ようやく春人が口を開いた。
「分かってた、お前が辛そうな顔してたの。悲しそうにどこか遠くを見てたことも。でも繋ぎ止めておきたかった」
私は黙って春人の言葉に耳を傾けた。
「正直なとこ、体の相性は雪乃が一番で、手放したくなくて……ごめん、最低だな」
「……最低な男」
「うん」
「嫌い」
「うん」
「変態」
「え?!それ酷いだろ」
ふふっと小さく笑った。そして私は穏やかに言った。