陽炎-7
「あぁ、彼女の忘れ物」
横になりながら春人はそう答えた。
「へぇ、それは失礼」
できるだけ明るく言った。胸の奥をズキズキさせながら…。
ネックレスを見れば、どんな女か大体分かる。色白、小柄でぱっちり目の可愛い女。そして、さっきの電話は彼女から。
私は起き上がり、服を着始めた。その行動に気づき、春人はがばっと起きあがった。
「何やってんの?!」
「帰る」
「はぁ?何で?!」
「明日友達と予定あるから」
「いやいや。つーか今、夜中だし」
「うん、でもあんたも明日彼女と逢うんでしょ?」
「昼から来るし」
「とか言って早めに来たらどうすんの。鉢合わせとか勘弁してよ」
春人は送るっと言ったけど私はそれを断った。
「砂雪に迎えに来てもらうから」
春人はそれ以上何も言わなかった。
「気をつけて帰れよ」
その言葉を背に浴び、部屋を出た。
バタン―…
夏の終わりの涼しい夜。私はただ一人、ひどくやるせない顔をしながら歩いた。そして公園のベンチに座り、携帯を開いた。
「砂雪?悪いけど迎えに来て」
場所を告げると、砂雪は何かを問うわけでもなく、ただ『分かった』と言って電話を切った。
余程とばして来たのか、数分後に砂雪の車が公園前に着いた。
そして走って駆け寄って来て、ぎゅっと私を抱きしめた。
ツンと目頭が熱くなるのが分かった。小さくふっと息がこぼれた。
「……さゅ……き」
「…ばかね」
そう言って姉は背中を軽く叩いた。
私は姉に抱きつき、溢れでる感情を抑えられずにいた。