陽炎-6
「気をつけて帰れよ」
「そっちもちゃんと彼女守ってあげなよ」
「当たり前」
八木と彼女は手を繋いで仲良さそうに去って行った。
その後ろ姿をやりきれない気分で眺めた。
蝉の鳴き声が無情に響いていた。
夏休み後半。
課題に追われていた。
毎年こうなるのは分かってはいるが、何故か繰り返してしまう。
学習能力がなさすぎる。
後悔と反省に呑み込まれていると着信音が鳴った。
何故かしばらく着信音を聞き続けた。
「はい」
『暇?』
「暇じゃない」
『何で?』
「課題に追われてんの」
『今の内に終わらせて夜来いよ』
呆れたように私はため息をついた。
「……だめ、無理!じゃぁね」
春人の次の言葉を聞く前に電話を切った。
セフレの男に何でこんな振り回されなきゃならないのか。冗談じゃない。
しばらくするとメールがきた。
【俺がそっち行くから】
当然返すわけもなく無視をした。数分後、またメールの着信音が鳴った。
【逢いたい】
課題を進めていた手が止まった。
何で振り回されなきゃならないのか。なのに私の手はメールを返してしまった。
♪〜♪〜♪〜〜
「んー春人うるさい」
「あー」
春人の着信音で私たちは目を覚ました。こんな夜中にかけてくるなんて…春人と並ぶくらい非常識だ。
「もし〜、おぉ……今?寝てた」
珍しく春人が電話に出た。私は寝返りをうち、薄暗い春人の部屋を見渡した。
すると、月の光を反射してキラっと光る物があった。
「んー分かった、明日。じゃぁ」
ちゃんと電話を切り終わったのを確認して春人に尋ねた。
「これなァーんだ?」
私が手にしていた物。
それは女物のネックレス。