第三十二章 愛情-2
「うっ・・・ううううっ・・・」
震わせる肩に、激情の強さが現れていた。
「あらあら・・・」
香奈子は娘を抱いたまま、ベッドに身体を横たえた。
「よほど怖い夢だったのね・・・」
あやすように言葉をかけながら、髪を優しくなでている。
「思い出すわね・・・
小さい頃はこうして抱いてあげてたのよ」
遠い目をしながら呟いている。
「うっ・・・ひっ・・ううっ・・・」
泣きじゃくる声が、懐かしい頃を思い出させてくれる。
「テレビなんかで恐い場面をみた後は、
必ずこうだった・・・・」
少女がまだ幼かった頃を。
「圭子はすぐに影響されるから・・・
きっと私に似たのね・・・」
「ママ・・・」
少女は顔をあげた。
涙で濡らした瞳が光を散乱させている。
「フフッ・・・」
母は笑みを浮かべると、娘のおでこに額をくっつけるようにして囁いた。
「眠りなさい・・・」
間近にある美しい瞳に、圭子はウットリと見つめている。
「うん・・・」
華やいだ香りを心地良く感じながら目を閉じていく。
(ママ・・・)
透通る瞳の残像を目蓋の裏に焼付けている。
(あったかい・・・)
抱きしめる温もりを逃すまいと、身体をしがみつけている。
「大好き・・・ママ・・・」
愛おしい呟きが、耳元に響く。
母は何も言わず、抱きしめる力を強めてやった。
「マ・・マ・・・」
途切れる声と共に眠りに落ちていく圭子は、薄れゆく意識の中で言い出せなかった言葉を呟いていた。