テレス・キオネ-1
大きな湖がある。
その湖岸沿いに、古い街道を車で進み、いくつかの村を過ぎたところに、エリ城はあった。
湖に浮かぶティアラと称された、湖上の城は、今は雪と氷に閉ざされ、氷の平原から伸びる氷筍となっている。
地元民以外で、その姿を見れる者は少ない。
しかし、その厳しい冬もかすかにゆるむ日差しの時を持ち始めていた。
それは逆に美しい罠が口を開く時期でもある。湖の氷は、場所によっては気付かないうちに薄くなり、人を飲み込むと、ゆるい流れに飲み込み、蓋をしてしまう。
エリ城の姫、キオネも深く暗い氷の罠の中へ沈んでいった。氷点に近い湖の水は小さな心臓を一瞬に止めてしまった。
近くの者は、たすけようにも氷に積もった雪で下が見えない。慌てて動くと、自分まで罠にはまりかねなかった。
だが、私は飛んでいた。ウイッチたる私は、意識体として空を飛ぶことができ、もちろん氷の下をも飛ぶ様に進むことができる。
すぐにキオネをとらえると、呪文を唱え、仮死状態にした。私自身、こんな遠隔魔法が使えるとは今まで思いもしなかった。
直接相手に魔法をかけるのではなく、意識体の自分が、相手に魔法をかけられるのだ。
これは少し前にある魔女に襲われ、記憶を奪われかけたときに、逆に流れて来た知識だ。まれに慌てたり、いい加減にかけた魔法は呪文やその構造をあらわしてしまうことがある。
だが、普通ならそんなものは簡単には使えない、わざとそうみせかけた罠かもしれないからだ。
今も、水の中で呪文を唱えたのだ、開けた口の中が水でいっぱいになる。
意識体には何の問題もないが、溺れそうになった肉体からの苦痛の訴えがあった。
あわてて本体に戻ると、下を向いて吐き出した。
当然湖の水ではない、唾液が溢れ出し、それに溺れていたのだ。
このように魔術というものは恐ろしい。呪文をかけたつもりが、違った形で自分へ返ってくることがある。
私は魔女に育てられ、魔法と医学を学んだ。
その、最後に学んだことは、どんなものにも対価を求められるということだった。
しかし、この時、キオネをすくうにはそれしかなかった。
これはキャッスル・エリの世界の中で、多次元世界のように起こる、アダルトな夢の深みを綴ったものだ。
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キャッスル・エリ・テイル 4
テレス・キオネ