ダイチ 〜4th story〜-8
―ヤバイ、なんでこんな気持になるんだ?!―
唐突に沸き起こったこの気持ちは、何と呼べばいいのだろうか?
胸の高鳴りに気付かれてしまいそうで、俺は彼女の顔を見る事が出来なかった。
「ダイチ君、恋ってのは唐突に始まるんだよ?」
―…唐突……?―
「ダイチ君、恋はしたいケド、その相手は誰でもいいって訳じゃないんでしょ?だったら焦っちゃダメだよ。」
―俺は焦っているのだろうか。
いや、この気持ちは焦りからきているものではないだろう。―
もし、彼女に対するこの気持ちに名前を付けるとすれば……、それは……。
『なんか、上手く言えないケド、恋ってのはしようと思って出来るもんじゃないんだよね?』
「棗はそうだと思うよ??」
彼女はテーブルに頬杖を付き、俺の瞳を見ている。
『意識せずとも唐突に始まる?』
「じゃないかなぁ??」
俺は何度も彼女に確認した。この気持ちにつける名前を探す為に。
「ねぇダイチ君、何を考えてるの?さっきから難しい顔しちゃってさ。」
俺は頭の中を整理することに必死だった。
俺の心に唐突に産まれたこの気持ち、この気持ちは……。
『棗ちゃん。俺の面倒臭い話聞いてくれて、本当にありがと。』
―頭の整理はついた。と、なれば……。―
「もう立ち直れました??」
彼女はすまして答えた。
『立ち直れたって言うか…、その……。』
俺は彼女への言葉を探す為に、一度言葉を区切った。そう、俺が気付いた想いを伝える為の言葉を。
「もう恋が出来ないなんて、言わないでね。ダイチ君は、棗の2年以上にも及ぶ恋を実らせないつもり??」
―えっ…?!―
一瞬、俺は彼女の言葉の意味を理解する事が出来なかった。
『……えっ、どおいう…?』
「棗が、男の人みんなにこんな事してると思う?週に何度もお店に会いに行ったり、こんな風に相談聞いたり……。ダイチ君だけだよ。」
思ってもみなかった彼女の言葉。思えば、彼女はいつも、俺の思いもよらない行動をとる。もしそれが俺への好意から来ている物だったとすれば、…俺はなんて鈍感だったのだろう。
「ダイチ君からのメールをすっごく楽しみに待ってたり、お店でちょっとでも会えると嬉しかったり、ダイチ君が元気ないとすっごく心配になったり、元気無いなら元気づけてあげようって思ったり、こんなのを恋っていうんだよ?」
どうやら俺は先を越されてしまったらしい。これは彼女からの告白の言葉なのだ。
笑顔で気持ちを伝えてくれた彼女に、俺はなんと答えよう。
だが悩む必要は無い。たった今気付いたばかりの気持ちかも知れないが、俺の心はもう決まっているのだから。
『もしかして、俺って鈍感??』
俺は彼女に苦笑混じりに訊いた。
「鈍感だよ。普通アドレスとか渡されたら、自分に好意があるんじゃないかって気付かない?!なのにダイチ君、メールの内容はお店の事ばっかり!お店に会いに行ってもお客サンとしか見てくれないし、どんなに仲良くなっても食事にすら誘ってくれない!」