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夢魔
【ファンタジー 官能小説】

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夢魔-9

この空腹をおさえないと、まともに考えることもできません。
≪もう一度、ミズチを呼ぼう。『前進のための後退』なんだ。一歩引いて考えるんだ≫
『なぜ行動に言い訳をするの。その時点で何かをごまかそうとしているのですよ。それが何なのか考えなさい』トア先生の言葉が出て来ますが、意味が考えられません。
そこに現れたのはミズチではありませんでした。母親の[赤黒い気配]です。
≪なに。これが見極めだというの?≫
[赤黒い気配]が目の前に立ちふさがります。「おまえはこれから、多くの者に恐怖を与えるだろう」
≪だから何≫ そのためにあたしの処女は略奪されました。ソラにあげたかったものは、[それ]への供物とされてしまいました。
「それを看過することはできない」素早く手を振りました。
何かがあたしの脳天を殴ります。
見上げようとしても首が上がりません。垂直に立ったまま動けません。
頭に手を当てると棒が突き出ていました。
≪槍?  刺された≫ それはのどを通り、子宮を串刺しにして、股間を抜けると、地面に刺さっています。
「どうしてこんな事するの」
「悪魔と結託し、堕ちていくものに容赦はない」
「あたしはもう堕ちてしまったの」
「リスクが大きすぎる」
「それでもあたしは違う」
「否」
「堕ちないかもしれない、リスクと言ったじゃない」
「否」
「こんなの公平じゃない」これが最後と叫びました。
「否」

「リスクは可能性であって必然ではない。現実でもない」声がしました。
あの、下を向いて歩く猫背の男でした。 「見きわめに、いつから意図が入り込むようになった」
「おじさん」
「たしかに君は危うい、だがそんな者は他にもいるのだよ。君が違うのは他の者より高みの、足場の悪い所にいるということだ。だから落ちやすいし、まわりにあたえる衝撃も他の者より大きい。それをこいつは気にかけているのだ」
「あなたは誰ですか」
男は私の言葉を無視します。[赤黒い気配]を見上げて、目を離しません。「危うくとも今は健全である。お前が判断を下すとは、まことに僭越である」
「この子は母と同じくらい狂うだろう、そうなってからでは遅い」
「おまえは狂ってなどいない。だからトアをこの子たちに就けたのだろう」
「そして死なせてしまった。私のしたことなど無意味だった。そしてこの女も流される」
「おまえがそうであったようにか? それでもおまえはやれているではないか。この子たちにもチャンスをやれ」
「今を逃し成人したなら、私には何もできなくなる。今しかない」
「おまえも最後の一点で踏みとどまっている。この子もトアのベッドであるというあの一点で、欲望から踏みとどまったではないか。
そのトアを連れてきたのはお前の功績なのだよ。だからおまえを生かしておけるのだよ」
「そんな小さな一点」
「そんな小さな一点で、おまえも変わった。この棒切れを持って消えよ、この娘の見極めは終わっているのだろう」
[赤黒い気配]が消えました。体を貫く槍も消えて、怪我もありませんでした。全ては心の中の、イメージの世界なのです。
「あなたは」
「君の家族はずっと見て来たのだよ」
「母を、私たちが生まれるまで面倒を見てくれていた人? マナキさん?」 魔に殺されたと聞いていました。
「君は妹を思いやり、トアを思いやれるいい子だ。私の事はファンだと思っていてくれればいい」軽く抱きしめてくれました。
「あたしはやっていけるんですか」
何も答えず、行ってしまいました。―――


母の部屋の中にいます。奥から母親が出てきました。
「あなたは認められたようね」
「あなたも認めてくれるんですか」
「あの男を呼ぶしかなかった。そう約束させられていたから。おまえにも約束しましょう。必然となった時には、私が息の根を止めてやります」
お祝いの一言もありません。
「成人なら、私の必要はありません。この家には二度と戻って来ません。あなたの好きにしなさい」

見極めというものは、全くの嘘で惑わすわけではありません。
その人の最も関心のあるもの、興味のある人、嫌なことが元になって[それ]によって組み上げられていくのです。
スクブスというものがあたしの中に存在するのかもしれないという不安は消せませんでした。
それでも先生なら言ってくれたでしょう。
「大切なのはあなたが『何であるか』ではありません、『何になりたいか』です。さあ胸を張って前を見なさい。希望は下には落ちていませんよ」




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