後輩への看病A-1
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やはり理央はまだ本調子じゃなかったようで、三人で食事を取ると、申し訳なさそうにしながら柚木よりも早く寝室に入った。
そのあと、柚木の宿題をリビングのローテーブルで見てやり、それを終えた時。
加奈子が立ち上がろうとすると、仕事から帰ってきた時のように柚木が抱きついてくる。
「どうしたの。今日は甘えん坊さんじゃない」
加奈子が柚木の背中をぽんぽん、と軽く叩く。
柚木は、グレーの無地のTシャツを着た加奈子の胸元に顔を押し付けている。
「学校で何かあった?」
「ううん……学校は楽しい」
「それなら良かった」
「ーー僕、佐藤くんが家にいると嬉しい。だって、今日みたいにお母さんが僕の側で寝てることもあるから……」
今朝のように胸が締め付けられる。
子供に言葉を選んで話させてしまっているーー
男の子だと言うこともあろうが「お母さんと寝たい」と今まで言えなかったのだろう。
「それにお母さん、佐藤くんといると楽しそう」
「ふふ、それはそうだよ〜。柚木も好きでしょ?」
「好き。佐藤くんは、ずっと家にいちゃダメなの?」
核心を突かれる。
柚木は顔を上げて、寂しそうな顔で加奈子を見つめる。
父親がいなかった柚木にとって、優しい理央の存在は大きいに決まっている。
「ーーそれは、すぐ答えられない難しい質問だね……」
「うん。それは僕にも簡単じゃないって分かる。ごめんなさい」
「ううん、謝らなくていいんだよ。柚木はお父さんが欲しいの?」
「違う。お父さんじゃなくて……僕は佐藤くんがいい」
泣きそうになりながら言うそれは、柚木の必死の告白なのだろう。
小さな時から側にいた亨ではなく、理央の名前が出るということは、柚木にとっても理央が特別なのだと、加奈子は思った。
「じゃあ、お母さんと一緒だね。お母さんも他の男の人がおうち来たりするのは嫌だもの」
ーー理央がここに一緒に住む。
正直誰かと籍を入れるなど、それは理央であっても考えたことがなかった。
周りに亨や、自分の妹や、父母もいる。
だからこそ、妊娠してから今まで、仕事も子育ても頑張れた。
籍は入れないとしても、一緒に住みたいという柚木の思いを、彼はどう思うのだろうか。
柚木を寝かしつけたあと、そんなことを考えて何となく寝られずに、柚木の布団の中でもぞもぞと動く。
そうしていると、理央が引き戸を開けてリビングの方へと出ていった。トイレだろうか。
加奈子は理央に飲み物を飲ませようと、自分もリビングの方へ移動し、電気をつけてグラスにペットボトルの水を注ぐ。
しばらくしてトイレから出てきた理央に、水の入ったグラスを渡した。
「体、どう?」
「水…ありがとう。冷たくて美味しい。まだ少しふらふらするかも」
水を飲ませて、二人はリビングへ入る。
加奈子が枕元へメガネを置いて、柚木の布団へ入ろうとしたときだった。
「ねえ、加奈子…」
「ん?」
「ちょっと、こっち来て」
加奈子は不思議に思いながら、理央の方へ体を寄せる。