第二十七章 Pホテル-5
「わかりました・・・」
タバコを消しながら、低い声で呟いている。
「データはすぐに消しましょう・・・」
意外な事に男は承諾した。
だが、余りにもあっさりした態度に香奈子は大きな声を出した。
「そんな事・・・
信用出来るわけ、ないじゃないっ」
口で言うのはたやすい。
データ等はいくらでもコピーして保存出来るではないか。
今更ながら、馬鹿げた提案をした自分に腹をたてていた。
瞳が潤んだ顔は今にも泣き出しそうに見える。
そのジレンマに香奈子は、やはり訴えるしかないと悟った。
只、それによって矢島家は崩壊し、愛する圭子とも別れなけらばならないと思うと、身を切られる思いがする。
「困ったなぁ・・・」
竹内は、はぐらかすように笑みを浮かべた。
「何なら誓約書を書いてもいいのですが・・・」
何を言われても白々しくて、不信感がつのる。
「う、嘘・・・又、私を騙すのでしょう?」
言葉を遮ると、更にきつい口調でののしった。
「卑怯者っ・・・
あ、あなたなんか大嫌いっ・・・」
甲高い声は何人かの人を振り返らせ、ラウンジに緊張が走った。
しかし香奈子を見つめたまま微動だにしない男の態度に、再び喧騒が蘇っていく。
決死の覚悟で想いをぶつけた香奈子は、身体を震わせていた。
(もう、死ぬしかない・・・)
そう思いつめている。
竹内を訴え、法廷で勝利した後に自殺しようと考えていた。
(それしか・・・
それしか、方法はないのよ・・・)
悲壮な決意を男は十分わかっている。
最初から写真等で脅すつもりはなかった。
そんな事をしたところで本当の喜び等、得られはしないのだ。
プライドの高い香奈子の事だから、本気で自殺を考えているだろう。