バスルーム-1
妻と自分の服を大きなクローゼットの片隅にかけ、下着などは、その隣のテレビ台にしては大き過ぎる木製の台の上に、きちんと畳んで並べた。クローゼットの一方の隅には、男のスーツがかかっていた。貴重品などは別のところに置いたのだとは思うが、それでも、ずいぶんと不用心な男だな、と、私は思いながら、妻と共に男が用意してくれたバスルームに向かった。
シャワーを浴び、妻を後ろから抱くようにして湯舟につかったのだが、それでも、浴槽は十分に余裕があった。
「目を開けていいから、こっちにおいで」
男は、まるで主人に呼ばれた犬のような勢いで走って来た。
「妻の身体を洗う準備をしなさい」
私がそう言うと、男はボディソープをスポンジに出そうとしたので、私はそれを止めた。
「違う。それは親が子供を洗うときの仕方だね。君は奴隷なんだから、石鹸は洗面器の中で泡立て、それを手にとって、そっと妻の身体に塗るんだよ。そうしないと、せっかくの妻の匂いが全て落ちてしまうだろう。それとも、妻はスポンジでゴシゴシしないと不安なほど汚いのかな」
「失礼しました」
男は、まるでソープ嬢がそうするように、洗面器で泡を作った。そうした行為に慣れていないのだろう、泡は上手には出来なかった。私は、あえて、浴槽を出て、彼に代わって泡を作った。ホテルの石鹸は高級なので、肌理の細かい美しい泡が出来た。それを作るのには、ちょっとしたコツがあるのだが、彼は知らなかったのだろう。
「肩、背中、腕、それから脚、そして、胸、最後には妻を立たせて、そこの部分も、ね。ただし、後ろの蕾だけは洗ってはいけないよ。そこには妻のとっておきの秘密の匂いが残っているはずなんだからね」
「えっ」
その言葉に驚いたのは、その男ではなく妻のほうだった。
「アナタ、それは無理なの、あの、それは、今は、ちょっと、その」
妻の動揺で私は、妻が、うっかり大きいほうをどこかでしてしまったのだと分かった。もちろん、こんな時代であれば、駅の公衆トイレでそれをしたのだとしても、ウオシュレットぐらいあったことだろう。
「してしまったんだね。仕方ないね。彼には覚悟してもらうしかない。ああ、覚悟は君の方がしなければならないのか」
「違うの。その。出てないの。少し、その、硬いみたいで、それで」
なるほど、出してしまって洗えば綺麗になったかもしれないのに、妻は、そこに残したままであることを気にしていたようだった。
「それならそれで好都合じゃないないか。彼に、君の恥ずかしい匂い、いや、味になるのかな、とにかく、君を良く知ってもらうチャンスじゃないか。それとも、彼は、妻のそんな汚いところは舐められない、と、そう言うかな。それでもいいんだよ。さすがに、そこは場所が違うからね。そんなことで、怒って帰るなんてことは言わないけど、さあ、どうなのかな」
「いえ、光栄です。嬉しいです。そんなところまで舐めさせていただけるなんて、奴隷は幸せです」
相変わらず時代がかった台詞だが、それはそれで楽しくないこともなかった。