ホテルにて-1
その男は貧相な身体に持参したのであろう手ぬぐいだけを腰に巻いていた。タオルではなく、それは手ぬぐいだった。褌やブリーフでもないところに、何か男の拘りのようなものがあるのだろうが、あえて、私はそれには触れなかった。そして、妻は、その風変りな格好にさえ気が付く様子のないほどに混乱していたようだった。
「君があまりにもナイスミドルだったので、妻は緊張させられているようなんですよ。悪いけど、君は少しの間、窓際にあった椅子に座って目を閉じていてくれるかな。その間に妻と私は湯につかり、そこで君を呼ぶから」
男は「はい、かしこまりました」と、時代がかった口調で答えると、広い部屋の奥の椅子に腰かけ、そして、目をギュッと閉じた。まるで子供である。私は、あえて妻を男の隣にやり、そこで私自身の手で妻の服を脱がせにかかった。しかも「さあ、後ろを向いてファスナーを降ろすよ」とか「手を上げて、キャミソールを脱がすから」とか「ブラの前に下を脱ごうね、さあ、右足を上げるんだ」と、いちいち男に分かるように、その行為を説明しながら、それをした。
「あっ」
全裸にした後で、妻のその部分に軽く指を持って行くと、妻はそれだけで吐息を漏らしてしまった。すでに興奮していたのだ。
「目を開けたら、私たちは帰るからね」
そう言いながら、私は彼を椅子の横に移動させ、そこに正座させた。そして、その鼻先に妻の股間が来るように妻を立たせた。
「君は、自分の指でそこを弄っていなさい。私は君の服をクローゼットにかけ、自分も全裸になるから」
「恥ずかしい」
「彼は目を閉じたままなんだよ。何が恥ずかしいんだ」
「だって、匂いが」
「匂いがしてしまうほど興奮しているのか。それならそれでいい。バイブレータに興奮する女はいない。君は彼を男として意識してしまっているんだ。そうしたことがないように、と、あれほど言いつけてあったのに」
そんなことは言っていない。何しろ、妻は、男として意識するに値しない醜く情けない男が来るものと信じて疑っていなかったのだから。しかし、私も妻も、そして、おそらく、その男もすでに芝居の中に入ってしまっていたのだから、もう、そんなことはどうでもよかったのだ。
「クチュクチュと音がしているじゃないか。濡れているんだね。これは、今日は、もう、相当にお仕置きが必要なようだね。まあ、いい、彼にも、たっぷりと聞かせてやればいいよ。さかりのついたメスになった証拠の音をね」