F休戦-1
それ以後自宅には結衣と結弦がいるし義父も腰痛で長距離運転をひかえている。
天守閣だけの丸裸の城があるのに攻められないのだ。
かといって強引攻め込む訳にはいかない。
恭子や浅海の時は攻めに攻めて落したのだが失敗したら諦めれば済むことだった。
だが佳乃は違う。一生付き合っていかなければならない相手なのだ。失敗は許されない。
最も安全な方法は相手が自ら城を出て降伏してくれることに尽きる。
そのため外堀も内堀も埋め城門まで開かせたのに戦に最も必要な運に見放されている。
それもこれも最大の勝機を逃がした運の気まぐれだ。
あの時、内からドアーを開けるべきだったんだ。
そうすれば全裸の男と女が遭遇しあとは自然の成り行きに任せるだけでよかったのだ。
一瞬の躊躇で勝つべき戦を逃したことが尾を引いている。
湊は運と時をじっと待つ。
これもご馳走を頂く時の調味料だと思っているので苦にはならない。
運と時が訪れるのに2か月かかった。
姫路の両親に孫を見せる為4日の有休を貰い帰省した。
2日目会社の事務員から電話が入る。
運転手の一人が事故で入院。
その荷物どうしても今日中に届けなければ膨大な違約金が発生するので出社して欲しい。
他の運転手はそれぞれの配達に出て誰もいない。
社長は腰痛が悪化して緊急入院。
奥さんはそれに付き添っている。
以上のような内容だ。
「結衣、緊急事態で配達に出なければならなくなった。」
「それじゃ、私も帰ります。」
「いや明日には戻ってくるから結衣はゆっくりさせて貰いなさい。」
会社に着くと義母は戻ってきていた。
「休みの所ごめんなさいね。幸い車は動く様なので事故現場の枚方迄私が送って行くわ。
後はその荷物を奈良まで運んで欲しいの。
荷物は大量の半導体で1日遅れただけで数千万円の損害を与える事になってしまうのよ。」
「分かりました。すぐ行きましょう。それよりお義父さんの容態は大丈夫なんですか。」
「検査の結果、酷使しすぎて痛めてしまったが休養すれば治るそうなの。安心したわ。」
奈良から帰ると事務所には義母が一人で待ってくれていた。
「お疲れ様、本当に助かったわ。お風呂にする?ご飯食べる?」
「なんだか夫の帰宅を待つ妻の会話ですよ。」
「それだけ感謝してるって事よ。今日はお礼にすき焼きにしたわ。」
「それは嬉しいな。でも先にお風呂を頂きます。」
風呂から上がり新品のパンツとバスローブを身に着けて更衣室を出るとすき焼きのいい匂いだ。
義母がビールを注いでくれる。
差しつ差されつ酒量は増えていく。
途中からは焼酎に代わっても美味しいものがあると酒も美味しい。
義母も昼間の心配から解放され安堵の表情で飲み続ける。
義母はいつもより饒舌だ。
話題は今日の事故の事が多い。
「運転手が自動販売機の前に車を停めて降りたところを後続車にハネられたらしいの。
トラックが無傷だったのは不幸中の幸いね。別のトラックに積み替えていたら間に合わなかったはずよ。」
リビングに移動した頃から会話は下ネタに変わっていく。
ママ友の不倫の話や浮気の話を具体的に話す。
「夫以外の男が相手だとどんな恥ずかしい事もできるらしいわよ。」
「例えばどんな事?」
「それを私に言わせる?69の体位も恥ずかしくないんですって。それに玩具遊びも気持ちいいらしいわ。
あと、ハメ撮りもするって言ってたわ。あの子の破廉恥は異常だわ。」
「69の体位ってどんなの?」
何も知らない純朴な青年になって尋ねる。
「私もした事ないんだけどお互いの性器を舐め合うらしいよ。股間を男の顔面に晒すなんて私にはとても出来ない。」
「おもちゃは分かるんだけどハメ撮りってやってるとこ撮るの?」
「そうらしいよ。後でそれを見ながらすると凄く興奮するって言ってたわ。」
完全に酔ってる。きっと好色の血が騒いでいるに違いない。
話を浴室ドア全開事件に持っていく。
あの時の勃起を思い出させるためだ。
「そうだったね。あの時は本当にごめんなさいね。」
「前から聞こうと思っていたんだけどあの時僕のをはっきり見たの?」
「一瞬だったからよく覚えて無いの。」
「でも見られたんだ。恥ずかしいな。で、僕のチンポどうだった?」
あえてその単語を使った。
「凄いなって思ったわ。」
そこまで言わせて今夜は千載一遇のチャンスだと認識する。
なんとしても女の方から攻めさせるのだ。
防犯カメラの性能について話し始める。
「あれ高かったんだ。普通の防犯カメラの10倍くらいするんだ。」
「なんでそんな高い物買ったの?」
「相場を知らなかったんだ。でも鮮明に写るの買ってよかったなって今は思ってます。」
「・・・・・・で・・・・写ってたの?」
(きたっ、ついに核心に触れて来た。慌てちゃ駄目だぞ。慎重に。)
スマホの映像を見せて一気に攻めれば間違いなく落とせる。
だがそれだと映像で脅迫されたから仕方ないわという心の逃げ道を作ってしまう。
「ええ、きれいに撮れてましたよ。」
「それを見て湊君はどう思ったの?」
「あっ、はい。最初来たときは飲み相手が欲しいんだと思いました。」
どこまでも鈍感な男を演じる。
「じゃ、二回目行ったときは?ベビードール写っていたんでしょ?」
「裸身が透けて見えていました。神々しい程美しいと思いました。」
「それだけ?」
「それは、いや、その。」
「よく考えて答えるのよ。君が考えている間に私シャワーを浴びて来るわ。」
ついに最終の段取りに入ったようだ。
しかしまだ肉欲をさらけ出して男に迫るまではいっていない。