第十六章 視線-8
「や、やめて・・・やめてください・・・」
おぞましい申し出を香奈子が受ける筈もなく、ひたすらこの場から逃げたいと願っていた。
「あんたを自由にしてやるぜ・・・」
だから、的を外れたような言葉に最初は反論する気も起きなかった。
「あんた・・・気持ちを、休んだ事がないだろう?」
(えっ・・・・?)
予想もしない事を言われ一瞬、力を緩めた。
「矢島家の一人娘として、
気を張って生きてきて疲れていないのか?」
(な、何を言ってるの、この人・・・?)
「うっ・・・・」
否定しようとするのだが、核心をつかれ声を詰まらせた。
「ずっといい子でいるのは・・・
つまらない人生だと思わないか?」
「違うっ・・違うわ・・・」
香奈子の顔が真っ赤に染まる。
一番触れられたくない事を言われ、動揺を隠せないでいた。
「俺が変えてやるよ・・・」
男の顔が近づいてくる。
「い、いやぁ・・・」
よけようと身をよじるのだが、追い詰められた姿勢は変える事が出来ない。
「俺が抱いてやる・・・」
「や、やめて・・・・」
「俺とセックスするんだよ・・・」
「ああ・・・・・」
間近で迫る顔が息苦しくて、切ない声が漏れてしまう。
怯えた表情が、男の征服欲を刺激する。
「楽しもうぜ、奥さん・・・・」
「ゆ、許してぇ・・・」
懇願する声も、か細く消え入りそうになっていた。
「もう、逃げられないんだよ・・・」
男が宣言する言葉に、全身の力が抜けてしまうのだった。