武島隼人の憂鬱ー番外編-1
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ゴールデンウィークがいく日か過ぎた頃だった。
「はぁ……」
退勤しようとした本間佳織が、隣の席の武島隼人の溜息に気づく。
「溜息なんかついちゃって。どうしたの。何か今日元気なさそうだったわね。五月病?ゴールデンウィーク遊びすぎちゃった?」
クスクス、と佳織が笑う。
「遊び」には、そういう遊びの意味も込められているだろう。
セックスフレンドに笑われるなんて、と思いながらちらりと佳織を見やった。
周りに社員がいないことを確認して、隼人は小さな声で言う。
「本間さん、明日とか、いつでもいいんですけど……近い日にちで仕事終わりに時間取れますか。土日でもいいし……」
言い終わって、隼人はぎゅっと唇を噛む。
自分を誘う、ということはゴールデンウィークに遊んだものの、あまり納得のいく遊びではなかったということか。
「あら……」
そう思って、佳織は思わず声を出す。そして、そっと唇を耳元に寄せた。
「それなら今日の方がいいかな。今日、息子残業で遅くなるってさっき連絡あったから、ご飯作らなくていいの」
隼人は佳織を会社の外で待たせ、早く身支度を済ませると、佳織のもとに駆け寄った。
隼人は佳織と共にタクシーに乗り、ホテル街がある近くの飲食店が立ち並ぶ道の辺りで車を停まらせる。
いつもなら会うのは隼人の家なのにーーそんなことを思いながら軽く食事をして、近くのホテルに入り込む。
佳織が会計を済ませようとすると、それを制された。
居酒屋でもあまり会話はせず、そのことについて佳織は気にしないようにしていた。
隼人がシャワーを浴び終わり、佳織がベッドから立ち上がって交代でシャワーを浴びようとすると、抱きすくめられる。
ジャケットを脱いで、白いカットソーに茶色のタイトスカート姿の佳織の、薄い布越しに感じる柔らかな肌。
隼人はぎゅっと抱きしめる。
五月も半ばになろうとしていて、外気温も暖かった。
体温が上がった佳織の体から香る、香水以外の甘い匂い。
香水が汗と混ざりあって、それが鼻腔に入り込んで隼人の理性を削ろうとする。
「ねえ、さすがに仕事の後はお風呂入らせて。歯磨きもしたいよ」
佳織は笑って言った。
「嫌だ、そのままでいい」
「もう。どうしたの?」
佳織は笑って隼人から体を離そうとするが、隼人は佳織の体を離さない。
「だーめ…、こらっ、武島くん」
隼人は佳織の体に体重をかけて、そのままベッドに押し倒す。
佳織は汗をかいている自分の体が恥ずかしくなって、体をよじる。
ダークブラウンに染められたショートカットから覗く首筋に、唇が押し当てられた。
「汗……かいてるから、絶対っ…」
「今日は許してください。じゃないと多分ひどいこと、してしまうんで」
「ん、ぅっ、もうしてるわよっ……。ゴールデンウィーク、遊んだんじゃないの」