第十五章 挑発-2
(ヒョウー・・・。
これこれ、この顔・・いいねぇ・・・)
切れ長の大きな瞳で睨まれるとゾクゾクしてくる。
美しい女が怒る様は、返ってイタブリたい気持ちが膨らみ興奮するのだった。
「只、沖縄で好きな女と週末を過ごすのも
悪くはないと・・・」
「あ、あの人は・・・そんな人ではありませんっ」
無礼な言葉に、香奈子は大きな声を出した。
(おほっー・・・怖ぇ・・・)
竹内は、おどけたそぶりで肩をすくませた。
その軽薄な態度に益々怒りを覚える。
「まあまあ、奥さん・・・ほんの冗談ですから」
切り返す言葉に、香奈子は顔を真っ赤に染めた。
(わ、わたし・・何をムキになっているのだろう?)
自分でも不思議だった。
異常に興奮しているのである。
たわいの無い冗談の筈なのに、イチイチ胸に突き刺さる。
だが、思い当たるふしが全く無いわけではなかった。
この一ヶ月余り、夫の遅い帰宅が極端に増えていた。
そんな日は決まって、スーツに香水の残り香が漂っていたのだ。
晴彦はその間、一度も妻を抱こうとしなかった。
夫を疑る訳ではないが、面白く思っていない事は否定できない。
そんな思いを竹内に悟られまいと毅然とした口調で言った。
「今までだって長期の出張は何度かありましたし、
私は夫を信じています」
だが、言葉をつなげる程言い訳がましく聞こえるのか、男が薄笑いを浮かべているように感じてしまう。
(フフフ・・・)
実際、竹内は心の中で笑っていた。
(熱くなってるぜ・・・結構、図星だったようだな)
香奈子の気持ちは、手に取るように分かっていた。
(それもその筈さ・・・
俺がセッティングしているんだからな・・・)