急接近-9
やがて食事が運ばれて来た。
「うわっ、美味そう…!」
メニューの写真だけでも美味そうだったが、匂いがまた涎を唆る。
「美味そうじゃなくて、美味いんですよっ♪」
彩乃が悪戯っぽくニコッと笑う。
「そ、それは失礼しました。アハハ!」
「ンフッ」
美人の笑みは彰の顔から締まりを奪う。
「お名前は?」
「あ、井上です…」
「井上さんね?ンフッ、萌香ちゃんの服もネックレスも…、井上さん、センスあるのね♪」
「えっ…?」
キョトンとする彰に萌香が慌てる。
「ち、ちょっと…彩乃さんっっ…」
「アハッ!ごゆっくり〜♪」
彩乃は目を三日月型にして冷やかすような笑みを浮かべて行ってしまった。萌香は彰の視線を恐れるように俯いていた。
「企画の話、したの?」
「あ…、はい。ごめんなさい…。ペラペラ喋るべきじゃなかったですよね…。」
肩を窄める萌香。
「い、いや…、むしろ人に話す程、企画を喜んでくれてたみたいで、嬉しくて。」
「ほ、ホントですか…?」
「うん!もしかしたら俺と仕事するの、嫌かなーとか心配してたから…」
「嫌なんかじゃないです!私、今、毎日楽しくて。井上さんと仕事してると新たな発見がいっぱいあるし、不思議と色んなアイデア浮かんで来るし、井上さん、私の意見とかアイデアとかちゃんと聞いてくれるし、これからもずっと井上さんと仕事したいなって思ってるんです!」
「ほ、ホント…?あ、ありがとう…」
まさかそこまで熱く語ってくれるとは思わなかった彰は照れてしまい、同じく熱く語ってしまった萌香もまた照れた。
「と、とにかく食べよっか…!」
「で、ですね!」
照れを払拭し、2人はいただきますをしてフォークとナイフを手に持った。
「あ、う、ウマッ!!」
チーズハンバーグを一口食べた彰は目を丸くして言った。
「うーん、やっぱり美味しい♪」
それでなくても蕩けるように可愛い萌香の顔がさらに甘く蕩ける。
「これ、ヤバっ!毎日でも食いたい♪」
「でしょでしょ♪また来ましょうね♪」
「う、うん!」
何気ない言葉だったが、また来ましょうね、その言葉に目の前が春色に染まったような気がした彰であった。パスタにも舌鼓を打つ彰。同じ喜びを共有した2人の距離は自ずと縮まって行く。